ワールド・イズ・ノット・イナフ

2000/01/11 イマジカ第1試写室
ピアーズ・ブロスナン主演の007シリーズ最新作。面白い!
新味を出そうとしたドラマ部分は失敗している。by K. Hattori


 ピアーズ・ブロスナン主演の007シリーズ最新作。ブロスナン主演のボンド映画としては3作目になるが、今回はアクションよりドラマ主体の映画になっており、その点が気に入るか否かが評価の分かれ目になるかもしれない。監督はヒューマンドラマ『ネル』、サイコ・スリラー『ブリンク/瞳が忘れない』、医療サスペンス『ボディ・バンク』などが印象に残っているマイケル・アプテッド。あまり大作アクションに縁のなかったアプテッドにあえて人気シリーズの監督をさせたのは、ドラマの面でブロスナン・ボンドに一層の厚みを出したいというプロデューサー側の狙いがあってのことだろう。ただ僕は今回の映画で、肝心のドラマ部分に難点があると思うんだよなぁ……。脚本をもう少し整理して、人物のつながりや感情的な関わりをスッキリしてほしかった。

 今回描かれるべきだったのは、恋するボンドだったはずです。ボンドがソフィー・マルソー演じる石油王の娘エレクトラに恋をすればこそ、ロバート・カーライル扮するプロのテロリスト、レナードとの関係が大きく膨らんでくる。ボンドとレナードは敵と味方であると同時に、同じひとりの女を愛した男同士でもある……。今回の映画では、エレクトラをはさんでボンドとレナードがきれいに対称型に配置されているのです。ボンドはイギリス諜報局MI-6のナンバーワン・スパイ。レナードはソ連KGBの雇っていた凄腕のテロリスト。ふたりとも、仕掛けの巧妙な爆弾や秘密兵器などが大好き。レナードは頭にめり込んだ銃弾が原因で体中の感覚を失った男であり、逆にボンドは人間くさい魅力を全身から漂わせる生身の男です。そしてふたりは、同じ女に恋をする。男たちは女の向こう側に敵である男の影を意識しながら女を抱き、彼女のために命がけで活躍する……。

 しかし映画の中では、こうした男たちの感情がうまく描かれていないように思える。世界ナンバーワンの男たちを手玉に取りながら、過去のトラウマから男たちを信じられずにいるエレクトラの悲しみのようなものも、映画からはあまり伝わってこなかった。ソフィー・マルソーはこうしたカリスマ性のある役には打ってつけだと思うのですが、途中から出てきた“ボインの姉ちゃん”デニス・リチャーズに存在感で負けてしまう。リチャーズ演じる核物理学者というのは単純なキャラクターなので、芝居で細かなニュアンスを付ける必要がない。その分だけ、ひとつひとつの芝居は大きくなる。逆にカーライルもマルソーも役に深みを出そうと演技した結果、芝居のスケールが小さくなってしまったように思います。

 こうした欠点は、しかし007シリーズという大きな娯楽装置の中では小さな傷にしかならない。僕は映画の序盤にあるボート・チェイスだけで大満足で、ここを観ただけで「おお、007シリーズだ!」とニカニカ笑ってしまった。観客のお目当ては、やはり洗練されたアクションにある。荒唐無稽で馬鹿馬鹿しいんだけど、それが洗練されているのです。いや〜、楽しかった!

(原題:The World Is Not Enough)


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