ロゼッタ

2000/01/12 映画美学校試写室
1999年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞したベルギー映画。
少女ロゼッタの職探し奮闘記。暗い。地味。by K. Hattori


 昨年のカンヌ映画祭でパルムドールと主演女優賞をダブル受賞した、ベルギーとフランスの合作映画。失業中の少女がいかにして仕事を得るかという、ただそれだけの話で1時間半を費やす映画だ。その中には、暴力もセックスもない。すごい美人も美男子も登場しないし、身を焦がすような激しいロマンスもない。話の組立などに繊細さを感じるものの、僕はこの映画を地味すぎると思った。地味だから悪いというわけではないし、これを地味すぎると受け取ったのは僕の趣味の問題。たぶん好きな人はとても好きになる類の映画なのだろう。監督・脚本は『イゴールの約束』のダルデンヌ兄弟。

 昨年のカンヌはこの『ロゼッタ』がパルムドールで、グランプリはブリュノ・デュモン監督の『ヒューマニティ』(日本では昨年のフランス映画祭横浜99で上映)だった。どちらも地味で暗い。それが昨年のカンヌの評価傾向だったのだろう。僕は『ヒューマニティ』という映画が大嫌いだったので、同じ審査員たちが選んだ『ロゼッタ』もどんなに不愉快な映画かと恐る恐る試写を観たのだが、こちらは主人公ロゼッタの前向きな生き方と、絶望的な状況の中に小さな希望の芽が見えることが幸いして、『ヒューマニティ』で味わった嫌悪感を再び味わうことはなかった。僕が『ロゼッタ』をそんなに悪い映画ではないと感じるのは、陰鬱で観客の神経をひたすら逆なでする『ヒューマニティ』と比較しているからかもしれない。『ロゼッタ』単独だとまた違った評価になるのかもしれないけど、僕は既に一定の予断の中で映画を観ているので、こればかりは何とも言えない。

 映画は主人公ロゼッタが工場をクビになるところから始まる。理由はわからない。彼女の真剣な抗議ぶりから、このクビは彼女に落ち度があってのものではないことだけは伝わってくる。ロゼッタは職を求めて町をさまよう。彼女は定職について、まともな暮らしをしたいと願っているのだ。彼女は母親とキャンプ場のトレーラーハウスで暮らしている。母親はアル中で、一時は入院して断酒したものの、最近再び酒に溺れ始めている。今ではたった一杯の酒のために、近所の男たちに身体を売るありさまだ。ロゼッタはそんな母親を憎みながら、彼女を捨てられない。母親のようにだけは絶対になるまいという決意が、彼女を職探しへと駆り立てる。生活保護もモグリの仕事も、彼女にとって意味のないものなのだ。確かに貧乏であることには間違いないが、彼女が必要としているのはお金ではない。仕事をすることで、彼女はまともな生活への切符を手に入れたいのだ。

 自分の仕事のためには他人を傷つけ、その死を願うことさえするロゼッタ。そこにはものすごく精神的なストレスがあるのだが、彼女は自分自身の生き方を支えるためにがんばり抜く。そのがむしゃらながんばりぶりを見ていると、「もっと肩の力を抜けよ」なんてとても言えそうにない。結局彼女は自滅するのだが、この自滅も彼女が再生するためのプロセスに思える。

(原題:Rosetta)


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