sunday drive

2000/01/19 映画美学校試写室
中年のビデオ屋店長とアルバイトの女子学生が殺人を起こす。
ふたりは車を借りて逃げることにするが……。by K. Hattori


 ビデオ屋でアルバイトをしている結衣と真二は同棲している恋人同士。店長の岡村は結衣に好意を持っているが、強引にどうこうしようという野心はない。店員一同そろってバーベキューに出かけるのを翌日に控えた夜、結衣は真二の浮気を知る。次に結衣が気づいたとき、店長と結衣の足下には頭から血を流して倒れる真二の死体が転がっていた。一度は警察への通報を考えた店長と結衣だが、ふたりはバーベキューに行くふりをして、車で逃げてしまう……。監督・脚本は『フレンチドレッシング』の斎藤久志。『フレンチドレッシング』にも主演した唯野未歩子が結衣を演じ、映画監督の塚本晋也が店長の岡村を演じている。今回塚本晋也は製作も担当。

 中年男が若い女の子に秘かに熱を上げ、それが殺人事件という非日常の中でめらめらと燃え上がる。「何があっても結衣ちゃんを守るから」とつぶやく岡村店長の姿が、言葉とは裏腹になんとも頼りない。それでも店長の目つきは真剣そのもの。そんな店長に多少の不安と不信を感じながらも、結衣は彼に付いて行く。むしろこの映画の中で肝が据わっているのは、結衣の方だろう。唯野未歩子は決して美人ではないし、セクシーなタイプでもないと思うんだけど、こういう状況の中で平然としている姿には奇妙な色気がある。「僕がいるから」「僕が守るから」と言っている岡村が、じつは精神的に彼女に依存しているというのがよくわかってしまう。

 恋のときめきは非日常のものだ。その非日常を手に入れるためには、多少の非日常的演出が必要になる。店長が企画したバーベキューというのも、じつはそうした非日常演出のひとつだったのかもしれない。ところが殺人事件という本格的な非日常が目の前に出現すると、そんなバーベキューは平凡きわまりない日常の尻尾に成り下がってしまう。河川敷で焼きそばを食べる主人公たちの姿を見ても、その後の彼らがうまく行くとは絶対に思えないではないか。のどかすぎる。ほのぼのしすぎている。「逃亡先はメキシコかボリビアだ」と言いながら、店長の行動半径は秋川渓谷止まりなのだ。すべてが解決した後、店長と結衣が関係を新たにするには、別の非日常を手に入れるしかなかった。それがこの映画の突飛ながら痛快なラストシーンであり、その突飛さは「アイスであたりが出て嬉しい」というごく平凡な日常にうまく着地することで、爽やかなハッピーエンドになっている。

 話は面白いし、芝居も悪くない。しかし、所々で声が聞こえなくなってしまうのには参った。特に気になったのは、主人公ふたりが車の中で共に夜を過ごす場面と、ビデオ屋に戻った店長がバックヤードで結衣を抱きしめる場面。このふたつは映画の中でもかなり重要なシーンなのだが、声がさっぱり聞こえない。人間は重要なことを得てして小声でボソボソしゃべるものだから、ここで大声を出させる必要はない。しかし重要な会話なんだから、この場面ではきちんとマイクで音を拾ってほしいのだ。技術的な不備によって、映画に傷が付いたのは残念。


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