ヴァン・ダム in コヨーテ

2000/01/24 日本ヘラルド映画試写室
元傭兵の男が小さな町のギャング組織相手に大立ち回り。
『用心棒』の現代版リメイクもどき。by K. Hattori


 荒野の中にぽつんと孤立した小さな町。離れた場所に高速道路が通ったことで町は発展の可能性を失い、今では無法者たちが我が物顔にのさばる嫌な町になってしまった。町を牛耳っているのはふたつのギャング・グループ。ギャングたちは敵対しながらも相互不可侵協定を結び、ちっぽけな町の利権を二分している。ギャング以外で町に残っているのは女と老人ばかり。彼らは暴力におびえながらひっそり暮らしている。そんな町に、ひとりの流れ者がやってくる。男の名はエディ・ロマックス。元傭兵の彼は敵対するギャング同士を同士討ちさせることで、町から暴力を一掃しようと企むのだが……。

 物語は黒澤明の『用心棒』やその西部劇翻案『荒野の用心棒』をベースにしているようだが、主人公は楽天的で豪快な風来坊ではなく、心に深い傷を負い、死に場所を求めて荒野をさまよう男に変わっている。彼がなぜ深く傷ついているのか。なぜかつての相棒ジョニーにバイクを届けねばならず、なぜ彼に許しを請わねばならないのか。そうした過去に関わる事柄は、この映画からは一切省略されている。なんだかよくわからないけど、それをそのまま押し通してしまう図々しさがいい。ここでくだくだしい説明をされるよりは、「俺は傷ついてるんだよ。本人が言ってるんだから間違いないだろ。文句あるか!」と言わんばかりの様子に、「はい、そうですね」と肯くしかない。こうした過去の省略は、『用心棒』や『荒野の用心棒』で主人公を匿名にしたことを、形を変えて引用しているのだろう。

 映画の序盤からこの映画が『用心棒』であることはわかったのだが、中盤からその下地が取れて、映画は「たったひとりのヒーローが大勢の敵に立ち向かう」というB級アクションの王道をひた走り始める。ここで主人公が荒唐無稽なまでに強いスーパーヒーローなら問題ないのだが、映画は最初に悩める主人公を描いてしまったので、ここでいきなり無敵の強さにしてしまうことはできない。だったらずっと等身大のヒーローとして『用心棒』をやってればいいのに、やっぱりそれだけでは我慢できないのがヴァン・ダム流なのかもしれない。ふたつの勢力の間でウロウロしながら漁夫の利としての勝利を得るという話が、ヴァン・ダムにはまどろっこしくて我慢ができなかったのでしょうか。さすがヴァン・ダム。単に脳味噌が足りないだけかもしれないが、男らしいぞ。ヴァン・ダムに姑息な計算は似合わない。そういや主人公のエディはレストランのウェイトレスに一目惚れしたくせに、若い女の子をふたりハントして3Pプレイで汗流してました。どこが『用心棒』だ。考えてみれば、この辺から映画がアサッテの方向に向かうんだろうな……。

 監督がベテランのジョン・G・アビルドセンということもあって、映画としてはちゃんとまとまってます。決めるところはきっちりと決めて、見せ場もたっぷりと仕込んである。娯楽映画としてはまず合格点。しかしあくまでも「まずまず」なので、これはパトスでもOKです。

(原題:INFERNO)


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