静かなるドン
THE MOVIE

2000/01/26 KSS試写室
昼は下着メーカーのデザイナー、夜は日本一のヤクザのドン。
あの近藤静也が映画になって帰ってきた。by K. Hattori


 オリジナル・ビデオ(OV)の人気シリーズだった、新田たつお原作、香川照之・喜多嶋舞主演の『静かなるドン』が劇場映画版として復活。スタッフとキャストはOV版をそのまま踏襲している。監督・脚本は『いちご同盟』『ズッコケ三人組 怪盗X物語』の鹿島勤。映画としては非常につまらないもので、『いちご同盟』を観た人がこの映画を観ても、とても同じ監督の作品とは思えないだろう。これはOV版をそのまま映画に持ってきてしまったために生じることで、OV版と同じスタッフとキャストで映画を作る限り、こうなることは避け得ない。むしろOVのルーティンをそのまま繰り返すことが、作り手側のファンへの誠意なのだろう。

 しかしOVのシリーズはもう4年も前に完結している。これだけ間隔を置いて、一度終わったシリーズを復活させることにどんな意味があるのだろうか。過去のOVシリーズを総括し、新展開・新機軸の映画を作るというならまだしも、この映画は過去のOVシリーズの続編です。OVを見ていない人には、登場人物の関係もわかりにくいし、独特のノリにも付いていけないでしょう。これをきっかけにして新たなファンを開拓しようとか、ビデオ屋でほこりをかぶっている旧シリーズをテコ入れしようとか、そういう戦略的な思考がまったく見えてこない。僕は原作も知っているし、OVも何本か見たことがあるから何となく様子は分かるけれど、そうでない人には何が何だかよくわからないよ。OVを見ている人だって3,4年ぶりのドンとの再会なんだから、過去のいきさつを軽くおさらいしておくぐらいのサービスはしてほしかった。そうすることで、シリーズ初心者も馴染みやすい映画になったと思うんです。この映画じゃ、単なる同窓会です。出演者たちは懐かしい顔ぶれがそろって生き生きとしてますけど、観ている方はちと辛いなぁ。

 映画版とは銘打っているものの、この映画が最初からビデオ発売目的であることは明白。それはそれでいい。同じOVの人気シリーズ『ミナミの帝王』だって劇場版を作っている。ただし『ミナミの帝王』はシリーズがきちんと動いているときに、その流れの中で劇場版を作っているはず。シリーズが終わってしまった後になって、出し遅れの証文のように劇場版を作る。この理由が解せない。これを振り出しに、またOVシリーズを復活させるつもりなのかもしれないけれど、だったらそれなりの作り方というのがあるのではなかろうか。

 じつは僕、このシリーズ嫌いじゃありません。テレビで中山秀之と石田ゆり子のシリーズが始まったときは、最初に1回だけ見て「なんでOVと同じメンバーにしないんだよ!」と怒ってしまったぐらい。原作を見ていても、近藤静也は香川照之を、秋野明美は喜多嶋舞を連想しちゃうもんね。それだけに、シリーズが再スタートするならそれにエールを送りたいし、鹿島監督の「映画」としての期待も高まっていた。期待が大きかっただけに、今回の映画はちょっと拍子抜けしてしまったよ。


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