ブリスター!

2000/02/04 シネカノン試写室
幻のフィギュア“ヘルバンカー”ははたして存在するのか?
フィギュア・コレクションの世界を描く青春映画。by K. Hattori


 アクションフィギュア・コレクターのマニアックな世界を背景に、人間にとって一番大切な何かを探し求める若者たちの姿を描いた異色の青春映画。監督はCF出身の須賀大観。主演はTVドラマ中心に活躍している伊藤英明。そのガールフレンドを演じているのは、『月とキャベツ』『きみのためにできること』の真田真垂美。フィギュアのコレクションに狂った主人公が、幻の超レア・フィギュア“ヘルバンカー”を探す旅の中で、様々な人と出会い成長していく物語。映画はこのメイン・プロットに、地球の自転が静止した超未来や“ヘルハンガー”の原作世界、自分の後継者を捜す韓国の老彫刻家のエピソードをからめて、「こういう映画だ」と一口では語れないファンタスティックな世界を描いている。

 じつは僕の弟がアクション・フィギュアの販売業をやっているのだが(今でもやってるのかな……)、僕自身はあまりそうした世界に興味がない。フィギュアにも特に興味がないし、ましてやそれをコレクションするなんて理解不能。でもこの映画の上手いところは、映画の導入部でフィギュア・コレクションの概要やコレクターの心理を、それと縁のない人たちに向けて簡単に説明してしまうこと。コレクションに血道を上げる主人公の恋人を、フィギュアにはまったく興味のないカメラマン志望の女の子にしているのも、この世界に興味も縁もない観客と近い人物を配置しておこうという工夫だ。何しろこの映画、この女の子を除外すると、ほとんどがSFオタク、フィギュア・マニア、レア物コレクター、ロボットアニメ・オタクなど、普段我々があまり接触することのないディープな人たちばかり。何の説明もなしにこうした人たちがゾロゾロ登場したら『七人のおたく』だよ。

 物語はこうしたマニアたちが自分たちの趣味にひたすらのめり込み身を持ち崩していく様子を、残酷さとユーモアと優しさを交えて描いていく。登場するやいなや「ふたつで充分ですよ」と『ブレードランナー』がらみの台詞で映画ファンを喜ばしてくれた年輩の店長は、デロリアンを『バック・トゥー・ザ・フューチャー』仕様に改造するために莫大な借金をこさえて逃走。ネイルアーティスト志望の女の子を好きになったあげく、スケッチブック一杯に彼女の似顔絵を描いて逆に不気味がられてしまうロボット・マニア。コレクションに執着するあまり、人殺し寸前まで突っ走るレア物マニア。どいつもこいつも、世間一般の常識や良識に照らし合わせればどうしようもないボンクラ揃いで、社会からの落伍者です。でもこいつらが、たまらなく愛おしい。

 主人公の青年は最後に自分のコレクションの虚しさに気づきます。でも彼は最後まで、フィギュアに対する愛だけは捨てない。集めることが自己目的化してしまったが最後、コレクションの世界は無限地獄。でもそこに自分の成長とつながる何かを発見したとき、主人公はブリスターを破って新しい自分に向かう第一歩を歩み始める。エンドクレジットもご注目。オタク必見の映画です。


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