イギリスから来た男

2000/02/07 メディアボックス試写室
テレンス・スタンプ主演のハードボイルド風ミステリー。
監督はスティーヴン・ソダーバーグ。by K. Hattori


 テレンス・スタンプが刑務所から出てきた元強盗犯を演じる、ハードボイルド・タッチの犯罪ドラマ。強盗の常習者として若い頃から何度も刑務所とシャバを往復していたウィルソンは、受刑中に事故死した娘の死因を探るため、ひとりでロサンゼルスにやってくる。娘の友人が言うには、娘は死の直前にヤバそうな連中と口論していたという。娘は事件に巻き込まれて死んだに違いないと確信したウィルソンは、恋人だった音楽プロデューサーに近づき、真相究明と復讐のチャンスを狙う。

 監督は『セックスと嘘とビデオテープ』のスティーヴン・ソダーバーグ。つい最近『アウト・オブ・サイト』という犯罪コメディを撮った彼なので、この手の素材が苦手というわけではなかろう。物語そのものは「暗い過去を持つ男がそれを精算するために、ある女の死の謎を追う」というハードボイルドものの典型的なストーリー展開になっているが、長回しでサスペンスを生み出す手法を廃して徹底的にカットを短く切ることで、単なるミステリーでは味わえない心理描写の余韻を感じさせる。主人公が過去を回想するシーンで、テレンス・スタンプが主演した'68年のケン・ローチ監督作『夜空に星のあるように』を巧みに引用しているのがユニーク。この映画ではピーター・フォンダが敵役を演じているのだが、彼が若い頃にオートバイで全米を旅した思い出を語る場面は、どうしたって『イージー・ライダー』を連想させる。この映画はスタンプとフォンダというふたりのスター俳優が、過去と現在を行き来する物語なのだ。

 ひとつの会話シーンの中で時間経過をバラバラにしてから前後を再構成するテクニックが随所に登場するが、これによって会話シーンが単調にならず、時間的にも空間的にも広がりが出てくる。普通、会話のシーンは映画のなかで一番単調でつまらない場面になりがちなのだが、この映画の中では会話シーンが一番スリリング。しかもこうしたきめ細かなカット割によって、ストーリーの中にたくさんの隙間ができて、そこに別のエピソードを突っ込んだり、回想シーンをはさんだりする余裕ができてくる。映画の冒頭に中盤やラスト近くの絵を挿入したり、逆に終盤になって冒頭近くのエピソードを断片的に挿入したり……。こうすることで映画全体がひとりの男の回想のようにも見えてきて、物語の余韻は深まるのだ。

 テレンス・スタンプがとにかく素晴らしい。僕は『コレクター』も含めて彼の若い頃の作品はまったく観ていないのですが、現在の彼はきわめてジェントル。それでいて絶対に堅気じゃない雰囲気もプンプン漂ってきて、それがじつにいいのです。悪役も数多く演じてきた人だから、今回のような役もしっくりとはまる。袋叩きにあって通りに放り出された彼が、小型拳銃を握りしめ、、身体をひょこひょこ左右に揺すりながら建物の奥に消えて行く場面の格好良さ。ピーター・フォンダを射殺するシーンでは、ピストルを取り出す動作も構える仕草も、いちいちピタリと決まっている。かっこいいぞ。

(原題:THE LIMEY)


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