花火降る夏

2000/02/08 映画美学校試写室
『メイド・イン・ホンコン』のスタッフが作った香港返還の物語。
退役軍人たちが銀行強盗に早変わり? by K. Hattori


 香港のインディーズ監督フルーツ・チャンが、前作『メイド・イン・ホンコン』と同じスタッフで作った2時間8分の大作。イギリスから中国への香港返還と同時に退役になった香港英国軍の中国人兵士たちが、行き場を失ってヤクザになったり銀行強盗をする話だが、激しく移ろう時代の中で、時代の流れから取り残されて手も足も出ない人間たちを描いた普遍的ドラマとも言える。本人たちは何も変わっていないのに、周囲の世界だけが変わって、主人公たちは社会からはじき出されてしまう。主人公たちの位置づけは、サム・ペキンパーの映画に出てくる西部のガンマンたちにもちょっと似ている。でもペキンパー映画のヒーローたちは、最初からアウトローだった。ただ生きていく場所がなくなっただけだ。でも『花火降る夏』に登場する退役軍人たちは、現役時代に何も恥ずべきことをしていない。むしろ誇ってもいい仕事をしていたはずだ。でも彼らは香港返還という時代の動きの中で、用済みの人材として街頭に放り出される。

 香港が返還される数年前から、中国返還を不安に感じる人々は次々に海外に移住したり、仕事の拠点を海外に移したりしていた。(香港の映画人などにも、そうした傾向がある。)一方香港に残ることを決めた人たちの多くは、開き直りなのか本気なのか知らないが、中国への返還を積極的に肯定しはじめる。この映画に描かれる、香港前後の浮かれたお祭り騒ぎは何だろうか。そこには天安門事件で頂点に達した中国への不安感など、微塵も感じられはしない。一方では中国に不安を感じる人がいて、一方には中国に積極的に同化しようとする人々がいる。しかしその中間で、まるで傍観者のように立ちすくんでいる人たちもいるのだ。それがこの映画に登場する、退役軍人やヤクザたちだろう。彼らは政治なんてどうだっていいのだ。国の統治者がイギリスにいようと北京にいようと、そんなことは知ったこっちゃないのだ。ただ彼らは、自分たちが生活してきた場所が、急速に変化していくことに不安を感じている。自分たちが信じていた足下の土地が、急速に流れ去っていくような喪失感を感じている。それに対して、彼らは為す術がない。

 物語の手法も演出テクニックも、『メイド・イン・ホンコン』より格段に上達していると思う。これは前作でも感じたことだが、この監督は時々ものすごく印象的な絵をスクリーンの上に作ってみせる。ただ、本人はそれを無意識にやっているらしく、そうした印象深い絵をたっぷり見せることはしない。「あと2秒観たい!」と思わせるようなカットが幾つもあるのだからもったいない。いずれにせよ、力のある監督であることは間違いない。完成済みの最新作『リトル・チュン』を観るのが、今から楽しみだ。きっともっと上手くなってるに違いない。

 『メイド・イン・ホンコン』で主人公のチンピラを演じたサム・リーにはすっかり貫禄が付いている。前作ではまったくの素人だったのに、この映画ではもういっぱしの若手スターの顔になっています。

(原題:去年煙花特別多 THE LONGEST SUMMER)


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