どら平太

2000/02/14 東宝第1試写室
「四騎の会」が準備していたシナリオを市川崑監督が映画化。
山本周五郎原作の明朗痛快時代劇! by K. Hattori


 昭和44年、黒澤明・木下恵介・市川崑・小林正樹によって結成された「四騎の会」が、第1回作品として準備していた山本周五郎原作の時代劇『どら平太』。結局この企画は流れてしまい、出来上がった脚本も映画化されることなく放置されていた。それから30年。「四騎の会」のメンバーだった監督たちも次々に他界し、現在残っているのは市川崑監督だけになってしまった。今回その市川監督が『どら平太』を監督することになったわけだが、最近の市川監督の低迷ぶりを考えると、どうせつまらない映画に違いないと勝手に考えていた。『四十七人の刺客』も『八つ墓村』もひどかったしね。でも『新選組』が大傑作だったから、「市川崑=ダメ監督」とは必ずしも断言できないわけで、『どら平太』に関しても期待と不安がない交ぜになってました……。

 結論から言えば、『どら平太』はとても面白い映画でした。昨年から今年にかけて『梟の城』『御法度』『新選組』『雨あがる』と時代劇映画が立て続けに公開されているわけですが、その中でももっとも万人受けする映画が『どら平太』だと思います。『梟の城』はダメダメ。『御法度』と『新選組』は趣味性が高すぎる。『雨あがる』はいい映画だけど、しょせんは黒澤のイミテーション。でも『どら平太』は、ごく普通に面白い。1時間51分の間、少しも飽きることなく観られますし、わかりにくいところもまったくない。『雨あがる』のように、「この場面が」「このセットが」「この配役が」というマニアックな指摘を楽しむ映画でもなく、ストーリーを中心にワクワクドキドキしながら観られる軽快な時代劇映画に仕上がっています。

 ただしこの映画に市川崑らしい様式美を求めてしまうと、少し物足りないと思う。乱闘シーンのめまぐるしいカット割りや、グラフィカルなエンドタイトルの処理、銀残しなど、随所に「おおっ!」という場面はありますが、やはり持続力がないのです。様式美は『新選組』で堪能することにして、この映画では純粋に物語の面白さを追いかける方が得策でしょう。僕がこの映画から連想したのは、同じ市川監督の『帰って来た木枯し紋次郎』です。ほとんどの場面は及第点の演出で、ポイントに市川調のスパイスを振りかけてある点が似ています。

 主人公のどら平太を演じるのは役所広司。TVドラマでは何度も時代劇に出演している人なので、着物の着こなし、立ち居振る舞い、立ち回りなど、どれを観てもまったく不安がない。肝のすわった遊び人「どら平太」と、忠義一心の町奉行「望月小平太」の表情をガラリと変えてみせるあたり、じつに上手いです。ちょっとわかりやすすぎる気配すらあります。新劇育ちだからかな……。

 キャスティングが映画演出の7割と言う市川監督は、主人公の友人役に宇崎竜童と片岡鶴太郎を配役。このどちらかが主人公を裏切っているらしいのですが、どっちが臭いのか最後の最後までわからない。浅野ゆう子はちょっと鼻につくかな……。でも、面白い映画ですよ!


ホームページ
ホームページへ