プロポーズ

2000/03/03 徳間ホール
遺産相続に必要な結婚相手探しに奔走する青年。
原作はキートンの『セブン・チャンス』。by K. Hattori


 いつも誰かしら女性と交際しているのに、いざ結婚となると怖じ気づいてしまうジミー。男にとって独身こそ自由の証。結婚なんて荒々しい野生馬が柵に追い込まれて飼い慣らされてしまうようなものだ。そんな彼にも、愛する女性はいる。3年前からつき合っているアンは、今までつき合ってきた女性とはどこか違う。周囲の友人たちも次々に結婚し、今や独身はジミーだけ。そろそろ年貢の納め時か。ジミーは意を決して彼女にプロポーズするのだが、彼の表情からは「しょうがないから結婚してやる」という態度が見え見え。アンはそんなジミーの態度にへそを曲げて帰ってしまう。そんな時ジミーの祖父が亡くなり、彼に1億ドルという莫大な遺産が転がり込むことになった。条件はジミーが30歳の誕生日までに結婚すること。誕生日は明日だ。ジミーはあわててアンにプロポーズするが、段取りの悪さからまたしても振られてしまう。ジミーはかつて交際していたガールフレンドに片っ端からプロポーズするのだが……。

 主演はクリス・オドネルとレニー・ゼルウィガー。監督のゲイリー・シニョールはイギリス出身で、本国では既に何本かの監督作があるという。この映画は導入部がじつに愉快。主人公ジミーのナレーションで、独身男たちが独身生活に対して持っている幻想や、結婚に対する漠然とした恐れなどをじつに巧みに描いていると思う。恋人を愛していないわけじゃない。でも結婚となると少しひるんでしまう。恋愛関係の中で自分で主導権を取ったり、互いに対等なうちはいいけれど、女性の側から結婚というプレッシャーをかけられるとひるんでしまう男たち。僕にも似たような経験がないわけじゃない。気持ちはわかる。結婚してしまった人から見れば、今どき結婚なんて別段どうということもないもの。でも独身の人間から見ると、結婚というのはやはり特別なんだよな。ヒロインのアンと妹が、「ジミーはプロポーズが初めてだから失敗した。バツイチか男やもめならよかったのに」と言っているけれど、これは正しい。結婚に憧れるにせよ、結婚を恐れるにせよ、そこには結婚に対する過度な「幻想」があるんじゃないだろうか。

 もともと「遺産のためのは今すぐ結婚しなければ」という話なので、愛情が二の次に見えてしまいそうになるのは否めない。原作となったバスター・キートンの映画『セブン・チャンス』は1925年の映画だから、遺産のための結婚があったって許された。当時の女性はある程度の年齢になったら結婚するのが当然だったし、花婿選びの基準として財産や家柄が重視されるのは当然だった。今も現実には似たようなものだけど、映画の中ではそれが許されない。金のための結婚など不純なのです。今回は遺産が相続できないと経営している工場が人手に渡るという話を持ち出しているものの、やはり愛情が二の次になっているのは事実。しかし主人公は金のためのプロポーズを何度も繰り返す中で、真の愛情に目覚めるのです。恋愛映画としてはこんなところでしょう。

(原題:The Bachelor)


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