ザ・パーソナルズ
黄昏のロマンス

2000/03/28 サンプルビデオ(KSS)
1999年のアカデミー最優秀短編ドキュメンタリー賞受賞。
監督は日本人の伊比恵子。by K. Hattori


 1999年のアカデミー賞で、最優秀短編ドキュメンタリー賞を受賞した伊比恵子監督作品。地域のコミュニティセンターを舞台に、芝居作りに熱中する老人たちの姿を描いている。監督が日本人ということもあって話題になりましたが、結局劇場公開されずビデオでの発売になりました(レンタルのみ)。上映時間が37分のドキュメンタリーでは、地味すぎて小さなレンタルショップには入らないかもしれません。

 ビデオの字幕では特に言及がありませんが、この映画に登場するのはニューヨークにあるユダヤ人のコミュニティです。ひとりだけイタリア系の女性が登場しますが、彼女もユダヤ人の男性と結婚することで、ユダヤ人コミュニティの一員となっています。東欧からユダヤ人が大量にアメリカに移民してきたのは前世紀末頃がピークなので、ここに登場する老人たちはその数世代後の子孫ということになるのでしょう。彼らは紛れもないアメリカ人ですが、それでもユダヤ人の習慣を守り、地域の中で自分たちのコミュニティを維持している。ニューヨークにはユダヤ人が多いのですが、それでも住人全体の中で考えればひとつのマイノリティ・グループに過ぎません。そんなことを意識しながら見ると、この映画はより面白くなるかもしれません。

 老人たちが稽古しているのは、間もなく上演される「パーソナルズ」という芝居です。新聞に交際相手募集の広告を出すという設定を作り、その広告文案を自分たちで考え、その後どのような事件が起きていくかを次々に即興で演じていきます。演技指導と演出を担当している講師が、老人たちの即興芝居を肉付けし、メリハリをつけてひとつの舞台作品に仕上げていく。この映画はそんな舞台作りの裏側を追いかけながら、出演している老人たちの人生に踏み込んでいきます。実際に交際相手募集の広告を出したことがあるという人たちにインタビューし、人生の終わりが近づいている今でもパートナーを求める老人たちの孤独を浮き彫りにします。遠い昔の結婚生活の思い出話や、性生活にまつわる心の傷なども語られます。老人たちが今でも異性との性的なパートナーシップを求め続けていることが、じつに正直に語られているのには驚きます。72歳の老人とデートしていたらレイプされかけたと語る老婆の話など、見ているこちらは思わず笑ってしまいますけどね。人間はいくつになってもセックスしたいのかな。

 登場する老人たちが、いかにも慎ましい生活をしているのにも驚きました。わずか数百ドルの年金が収入のすべて。その中の半分以上は家賃に消えて、あとは細々と生活している。ユダヤ人と聞くと僕ですら何となく「裕福に違いない」と思ってしまいますが、実際にはなかなか大変みたいです。でもここに登場する老人たちには、子供の世話になろうという発想はないみたい。独立独歩の生活を守っているからこそ、あけすけに人生やセックスについて語ることもできるのかな。

(原題:THE PERSONALS / Improvisations on Romance in the Golden Years)


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