現実の続き夢の終わり

2000/03/29 メディアボックス試写室
水野美紀が台湾で撮ったバイオレンス・アクション映画。
監督は『Jam』のチェン・イーウェン。by K. Hattori


 恋人を殺された日本人女性が、台湾ヤクザ相手に血の復讐を遂げるというバイオレンス・アクション映画。主演は『踊る大捜査線』の水野美紀。監督・脚本は『Jam』のチェン・イーウェン(陳以文)。物語の舞台はすべて台湾で、出演者やスタッフもまるきり台湾人ばかり。ヒロインの協力者になる台湾在住の日本人という役を『アナザヘブン』の柏原崇が演じ、台湾まで行ってむざむざ殺されてしまう日本人ヤクザを日本人の俳優が演じている程度。主人公は日本人だし出資も日本だけど、映画そのものは台湾映画のスタイルで作られている。この日台合作映画を企画したのは、何かと話題の多いプロデューサーの奥山和由。面白い仕掛けだと思います。

 映画はなかなか面白い。ヒロインと恋人との関係がよくわからないので、なぜ彼女が命がけで恋人のために復讐をしなければならないのか、その動機はやや弱いと思う。恋人の友人だった高橋という男が、なぜ危険を冒してまでヒロインに肩入れするのか、その理由もちょっとわかりにくい。でもその弱さがあまり気にならないのは、この映画の中でヒロインたちの行動が中心テーマになっていないからです。物語としては確かに日本人女性の復讐譚なのですが、奇妙なことに、この映画が本当に描こうとしているのは台湾ヤクザ内の勢力抗争なのです。ヒロインはいわば狂言回し。組織内で勢力を伸ばしている若いグループの台頭に頭を悩ませている台湾ヤクザ組織が、日本人ヤクザたちとのトラブルをきっかけにして崩壊していく。金勘定ばかりが上手い組織のトップ、事なかれ主義の弱気な親分、そして、昔気質の武闘派ヤクザと計算高い経済ヤクザの対立。要するにこれは『仁義なき戦い』の世界です。本当の主人公は、組織の力学に翻弄されて、自分の意志とは無関係に破滅して行く若いヤクザでしょう。ヤクザ社会の実態を知らぬまま、男たちを信じて身を滅ぼす若い女も哀れです。

 この映画の問題点は、ヒロインの活躍と台湾ヤクザの勢力抗争という2本立ての物語が、しばしば分裂してうまく馴染んでいないことだと思う。もちろんうまく馴染んでいる部分もあるけれど、全体としてはやはりチグハグ。どちらかと言えば台湾ヤクザの話の方が魅力的なので、「この話に日本人のヒロインなんて不要じゃん」と思ってしまうのです。監督以下のスタッフがすべて台湾人ですから、こうした結果になるのはむしろ当然かもしれない。製作サイドもそれは当然予期していたはずです。

 物語が多少弱くても、この手の映画はアクションシーンが面白ければ十分に観られる。そして、この映画のアクションシーンは特筆すべきデキなのです。女性が活躍する映画なので、アクションのほとんどはガンファイト。銃の取り扱いや射撃シーンが嘘っぽいと白けますが、この映画のそれはじつにリアルです。銃に重みが感じられるし、銃声も生々しい。それに弾があたると痛そうです。クライマックスの銃撃戦には北野映画の影響も感じられますが、ある意味でそれを超えていると思う。必見です。


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