ナインスゲート

2000/04/03 徳間ホール
悪魔が書いた世界に3冊しか現存していない幻の魔術書。
その秘密をジョニー・デップが追う。by K. Hattori


 ロマン・ポランスキーが監督した本格オカルト映画。原作はアルトゥールロ・ペレス・レベルテの小説「呪のデュマ倶楽部」。古書の鑑定人として世界有数の鑑識眼を持つディーン・コルソは、悪どい手口で世界中の貴重な本を手に入れることでも有名なブックハンター。そんな彼が出版業者のバルカンから依頼されたのは、バルカンが入手した伝説の奇書「ナインスゲート(影の王国への九つの扉)」の鑑定だった。1666年に書かれたこの有名な魔術書はすぐさま禁書になり、作者共々火の中で燃やし尽くされてしまった。目録によれば、現存するのは世界中でたったの3部。だがバルカンはその3部のうち、本物はたった1冊なのではないかと疑っているらしい。誰も3冊の本を詳細に比較したものはいない。コルソが命じられたのは、3冊の本を相互に比較してバルカンの本の真贋を確かめること。もしバルカンの本が贋物で他に本物があれば、いかなる方法を使ってもそれを入手することだ。だが早速作業に取りかかったコルソの周囲には、常に怪しい人影がちらつき、行く先々で次々と殺人事件が起こるのだった。

 映画に登場する魔術書「ナインスゲート」は架空の本だが、似たような本は世界中に無数に存在する。そしてそのどれが“本物”なのかを見極めることは難しい。もともと人目に触れない場所で流通していた書物であることに加え、その時代ごとに多くの研究者や魔術師たちによって様々な手を加えられて行くからだ。有名な魔術書「ソロモンの鍵」には多数の翻訳や増補版といったバリエーションが存在し、今となってはそのオリジナルな形を復元することすら難しいという。魔術書がもてはやされたのはせいぜい19世紀までで、それ以降は科学に押されて魔術そのものがすっかり影を潜めてしまった。しかしユイスマンスの小説「彼方」にも描かれているとおり、中世やルネサンス以来の悪魔崇拝や魔術が現代にも一定の支持者を得ていることは間違いない。この映画の主人公コルソは神も悪魔も真剣には信じず、世間のモラルよりは金のために働く現代人だ。そんな彼が魔術書の真贋を問うことで、少しずつ現代の悪魔崇拝グループに近づいていくのが映画前半の面白さだろう。

 映画としてはやや中途半端。物語の前半では、古書業者の怪しい世界をもっと徹底的に描いてほしかった。同じように悪魔が登場する映画でも、探偵映画の装いをした『エンゼル・ハート』や、法廷ものの衣をまとった『ディアボロス』などはその点を工夫していました。最初は古書の取引にまつわるトラブルだと思われていた事件が、否応なくオカルトめいてくると後半はもっと楽しめたと思う。結局「ナインスゲート」は本物だったのか、主人公の周辺に出没する謎の女の正体は何者だったのかなど、いくつか腑に落ちない点もある。なぜ主人公は選ばれたのか。彼が少しずつ悪魔の力に魅せられていく描写がないと、物語のラストも何が何だかよくわからない。切り口は面白いけが、切れ味の悪い映画でした。

(原題:THE NINTH GATE)


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