DRUG GARDEN

2000/04/13 GAGA試写室
広田レオナの監督デビュー作は家族総出演の自伝(?)映画。
まとまりのない映画だが、ディテールは面白いかも。by K. Hattori


 BOX東中野で行われている、エロスをテーマとするビデオ映画の連作上映“MOVIE STORM”の第4弾。今回の映画はシリーズ5作の中でも目玉商品と言えるものだが、過去3作に比べるとかなり毛色の違った作品に仕上がっている。監督は女優の広田レオナで、彼女にとってはこれが監督デビュー作。これは彼女の自伝的な映画だそうで、映画の中で彼女は女優でモデルの“広田レオナ”本人を演じている。彼女はつい先日、夫の俳優・吹越満との間に女児を出産したばかり。映画の中のレオナも、途中で妊娠していることがわかる。吹越満はこの映画にも出演し、主人公の夫フッキー役を演じている。少なくとも広田レオナを巡る人々は、現実そのままなのだ。となると、映画に登場する少年は広田レオナが前の夫との間に生んだ息子なんでしょうね。前の夫役の人は、本物の前夫だろうか……。プレス資料にはそういう面白そうな舞台裏がまったく書かれてなくてちょっと不満。最後の方に登場する「友情出演」の面々も、まったく資料に載ってないから誰がどの役なんだかわからない。北村一輝はひょっとして最後のドラァグクイーンか?

 “MOVIE STORM”シリーズの過去3作は、どれも1時間強の中編映画だった。どれにもきちんとストーリーがあって、その中にエロチックな場面がふんだんに盛り込まれているのが売り。しかし今回の『DRUG GARDEN』は上映時間も1時間半近くある長い作品だし、セックスシーンなどのエロチックな場面もまったくない。主人公が少女時代に受けた性的なトラウマや、同居しているドラッグクイーンの話が織り込まれているので、一応は「セクシャリティ」の話にはなっているんだけど、過去3作にあったエロチックなムードは皆無。むしろこの映画の中では、具体的な性行為を匂わせる描写が徹底的に排除されている。レオナの周囲にもセックスの匂いがまったくしない。最初にレオナの妊娠がわかる場面は、まるで処女懐胎のような雰囲気すらあります。

 性を描く映画から性の匂いがしないというのも不思議なことだけれど、結局これはドラッグクイーンの存在がある種のカモフラージュになっているのだと思う。彼ら(?)は女装した男として画面に登場するだけで、そこからは「同性愛」という要素が排除されている。この映画の中のドラッグクイーンは、きらびやかな衣装をまとった生きるオブジェなのだ。けばけばしい化粧や衣装で生身の肉体を覆い尽くし、他愛もないおしゃべりで空間を埋め尽くす3人のドラッグクイーンたち。ある意味で彼らは人間の性を超越した、きわめて観念的な存在になっている。それが映画の全面にずらりと並べられていることで、この映画は夫婦や子供といったエロス的人間関係を、周囲のセクシャリティと相対化してしまう。

 映画としてはきわめて退屈だったけれど、小さなエピソードやディテールには、女の子雑誌の「カワイイモノ特集」めいたにぎやかさがある。過去3作が男性の映画だとすれば、これはやはり女性の映画と言えるだろう。


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