モジュレーション

2000/05/09 シネカノン試写室
電子音楽の歴史と現在についてのドキュメンタリー映画。
インタビュー範囲の広さがユニーク。by K. Hattori


 「電子音楽」についてのドキュメンタリー。中心はハウスやテクノなどのダンスミュージックだが、映画の守備範囲はそれよりももっと広い。この映画の中では電気的な媒介を通して表現される音楽をすべて「電子音楽」という大きなカテゴリーに含めているため、ラジオやステレオから流れてくる音楽もすべて「電子音楽」の一部となっている。ジョン・ケージやシュトックハウゼンのような現代音楽の作曲家たちも現代の電子音楽に多大な影響を与えた人物として紹介されているし、シンセサイザーを発明したモーグ博士や、ローランドやヤマハといった楽器メーカー、ポップスの世界にシンセサウンドを持ち込んだジョルジョ・モルダーのようなプロデューサーにも言及されるしインタビューが収録されている。この映画は単にダンスミュージックの歴史と現在について描いているだけではなく、現代人と音楽の関わり方について新しい視点を提供する映画になっていると思う。考えてみれば僕だって、楽器の生演奏を耳にすることなんてほとんどない。CDやラジオやテレビなどで、電気的に加工された音楽を聴いているのです。

 1時間15分ほどのビデオ映画ですが、中身はかなり充実しています。この映画には大きく3つの要素が詰め込まれていると思う。ひとつは前記したような電子音楽の歴史についてのドキュメンタリー。もうひとつは、現役のミュージシャンたちによる演奏やパフォーマンスを記録し紹介した部分。さらにドラッグやビデオアートなどと結びついた、音楽と他文化との関係について述べている部分。これらは映画の中で明確に系統だった説明が為されているわけではありませんが、映画の中の大きな柱になっています。電子音楽の歴史をラジオから始めたように、この映画の守備範囲はものすごく広い。こうした守備範囲の広さが、映画の間口の広さにつながり、僕のような門外漢にも楽しめる映画になっているのだと思う。これ1本で音楽についてわかったつもりになるつもりはありませんが、自分の知らない世界に触れられるという面白さはある。この映画は僕のようなテクノもハウスも知らぬ人間にも、きちんとメッセージが伝わるように目配りが行き届いた映画になっているのです。

 この日は昼間に『ヒューマン・トラフィック』というイギリスのクラブ文化を描いた映画を観ていたので、思いがけずその「解説編」を見せられてしまったような偶然にびっくりしました。『ヒューマン・トラフィック』でも「最近のパーティーは以前に比べて大きく様変わりした」と言っていましたが、まったく同じ事をこの映画に登場する現役のDJたちが述べているのが面白かった。大規模な屋外レイブが出てくる映画には『ペダルドゥース』があるし、DJとドラッグを描いた映画には『アムステルダム・ウェイステッド』があるけれど、最近はああした映画とはまったく違ったクラブ文化が生まれているのか、それともクラブ文化そのものが衰退しているのか……。何にせよ、いろいろと勉強になる映画でした。

(原題:MODULATIONS)


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