すずらん
少女萌の物語

2000/05/16 松竹試写室
NHKで放送された連ドラを映画化した作品。つまらない。
こんな映画、いったい誰が見るんだ? by K. Hattori


 NHKで放送されていた朝の連続テレビ小説「すずらん」を、同じスタッフとキャストで映画化したもの。僕はこの番組を見ていなかったのでよく知らないのだが、長い放送の中から主人公の少女時代のみを取り出して、新たなエピソードも付け加えながら再構成しているらしい。テレビ番組の人気に便乗して映画を作り、それが大成功した例としては『踊る大捜査線 THE MOVIE』があり、この映画版『すずらん』もそうした日本映画界のトレンドの中で出てきた企画だと思う。でもNHKの朝ドラの視聴率を支えている人たちというのは、今もっとも映画館に足を運ばない人たちなのではないだろうか。そもそもテレビの番外編や続編ならともかくとして、テレビで放送したのと同じ話をただ映画にして、それでテレビの視聴者が映画館に足を運ぶものなのか? このあたりを松竹がどう考えているのかさっぱりわからない。いったいこの映画は、どんな客層を当て込んでいるのだろう。

 監督は以前松竹で『RAMPO』を撮ったことのある黛りんたろう。この人は当時松竹のプロデューサーだった奥山和由に作品をボロクソにけなされ、作品を再編集されてしまうという屈辱を味わった。その後松竹社内で奥山解任クーデターなどがあり、松竹の新経営陣は過去を水に流して再び黛監督に登場願ったというわけか。この映画の製作は、松竹、NHKエンタープライズ21、衛星劇場の3社になっている。NHKは朝ドラの総集編をビデオにして売った方がお金も手間もかからないわけだから、映画に新たに投資する必要なんてさらさらないのです。この映画の企画は、おそらく松竹側から出されたものだと思う。映画製作に当たっては黛監督が出した諸条件を、かなり受け入れざるを得なかったのではないだろうか。なんだかものすごくお金のかかった映画です。

 映画の冒頭で舞台となる明日萌(あしもい)駅周辺のオープンセットが画面一杯に映し出されます。これだけでもものすごくお金がかかっているぞ。その他にも本物のSLは走る、漁師小屋の巨大セットを組む、俳優を引き連れて北海道ロケを行うなど、この映画は美術費やロケ経費だけで膨大な金をつぎ込んでいる。「テレビではできないことを、映画の予算とスケールで行いたい」というのが、作り手である黛監督の意向だったのだと思われます。これは作り手としては当然の要求だし、観客だってテレビ以上のスケールを期待するわな。

 美術は立派でも、映画としてはひどくつまらない。血のつながらない駅長父娘のエピソードがこの映画の縦軸ですが、駅長役の橋爪功は無言の存在感で観客に気持ちをアピールできるようなスター俳優ではないので、序盤の淡々とした描き方では親子の関係がまったく伝わってこない。萌の命を助けた青年のエピソードも中途半端だし、萌の実母がなぜ我が子を捨てたのか、なぜ追われているのかについても言及がない。これはテレビを見ていればわかるということか。脇のエピソードばかりにぎやかで、肝心の物語が空っぽ。退屈きわまりない作品です。


ホームページ
ホームページへ