ネフュー

2000/05/17 メディアボックス試写室
アイルランドの小島にやってきた肌の黒いアイリッシュ青年。
彼の登場が20年前の事件をよみがえらせる。by K. Hattori


 007役者としてすっかり人気が定着したピアーズ・ブロスナンが、自ら設立したアイリッシュ・ドリームタイムの第1回作品として製作したヒューマンドラマ。ブロスナンは製作者として映画の陣頭指揮を執るだけでなく、パブの主人役で出演もしている。監督は新人のユージーン・ブレディ。ちなみに同プロダクションの2番目の作品が、『華麗なる賭け』のリメイク『トーマス・クラウン・アフェアー』だったんだとか……。

 物語の舞台はアイルランドのイニシュダラ島。島で農夫をするトニー・イーガンのもとに、アメリカから1通の手紙が届く。それは20年前に家を出たきり音信不通になっていた妹カレンが、死の床で書きつづった兄への遺言だった。妹は異境の地で死んだが、17歳になるその息子が遺骨を持って島にやってくる。どんな甥っ子がやってくるかとワクワクしながら待ちかまえるトニーの前に現れたのは、黒い肌を持つ精悍な青年チャドだった。最初は彼の登場に戸惑う島の人々だったが、彼にも紛れもなくアイルランドの血が流れていると実感した途端、その戸惑いは消えてしまう。ところがチャドがパブの主人ジョー・ブレイディの娘アイシュリンと親しくなったことにトニーは激怒。トニーとジョーの不仲は、カレンが島を出た原因と関係があるらしいのだが……。

 映画の序盤から中盤までを「過去の秘密」というミステリーで引っ張り、明らかにされた秘密が一度は人間関係をバラバラにしてしまうが、最後は互いに和解するというハッピーエンド。物語の構成としてはまず順当なところだが、ドラマの焦点がいまひとつ不鮮明で、過去の秘密がだいたい明らかにされてしまった後は物語から力が失われてしまう。役者はそれぞれの役柄をそつなく演じてはいるし、それぞれに面白いエピソードを織り交ぜてもいるのだが、どういうわけか役柄の輪郭が不鮮明だ。

 例えば青年チャドは、この島に何を期待していたのかがわからない。彼の両親については簡単な説明が彼自身の口からなされている。でも彼自身はニューヨークでどんな生活をしていたのか。島を出ていくことを決意した彼が、ニューヨークに戻れない理由は何なのか。彼にはアメリカに友人も知人もいないのか。なぜ彼はあっさりアメリカでの生活を捨てて、アイルランドに来ることができたのか。そのあたりがどうも不鮮明で、チャド本人の人柄が正体不明なものになっている。これはチャドを受け入れるトニーや、ブロスナンが演じているジョーの人物像についても言えることだ。

 現在の平和で穏やかな暮らしがきちんと描けていてこそ、チャドの登場で過去の出来事がよみがえるという「事件」に重みが出てくる。水面が静まり返っていれば、石を投げ込んだときの波紋は遠くまで届くものだ。ところがこの映画では、最初からトニーとジョーの仲は険悪だし、周囲の人間関係も波乱含み。これではチャドが現れなくても、いずれ破局は訪れたのではないだろうかと思わせるような部分もある。やや中途半端な映画です。

(原題:The Nephew)


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