TATARI

2000/05/26 GAGA試写室
このタイトルを見て映画をなめてかかったら大間違い。
究極のお化け屋敷映画で僕は吐きそう。by K. Hattori


 よくできたホラー映画を観ると、思わずニコニコしてしまう。『スクリーム』も『リング』も『シックス・センス』も確かに恐いんだけど、同時に「こんなに恐がらせてくれてありがとう」という感謝の気持ちを持ってしまうのが映画ファンという者でしょう。映画の中で恐いシーンが登場するたびに、「おおっ、すげ〜恐いぞ」と思いながらもニヤリとする。映画が終わった後は、憑き物が落ちたような爽快感が残る。それがホラー映画の面白さ。そこで演じられる恐怖は作り物の恐怖であり、そこに現れるのは作りものの幽霊。気持ち悪いとかエグイとかおぞましいと言っても、それは一過性のもの。少しの間目をつぶれば、それで通り過ぎる見せ物です。でもこの『TATARI』には参った。

 70年前の惨劇によって無人になった丘の上の病院。そこで数名の人間が肝試しパーティーを開いたところ、本当に幽霊が出てしまうという『ホーンティング』と同工異曲のお化け屋敷映画です。でもこれが『ホーンティング』とは比較にならないぐらいヘビーなのです。人間の恐怖感は「ショック」や「不快感」と強く結びついている。びっくり箱を知らずに開けてしまったときの驚きは、本当のことを言えば「恐怖」とは違うものだけれど、人間はそれを恐怖と勘違いする。不潔なものや不道徳なものを目にしたり耳にしたりしたときに感じる不快感も本来は恐怖とは別物だけど、人はそれを目の前に突きつけられるとそこに恐怖を感じる。ホラー映画はストーリーや演出で観客の「恐怖感」を巧みにリードしつつ、「ショック」と「不快感」で観客の心に揺さぶりをかけるのです。よくできたホラー映画は、すべて「恐怖」「ショック」「不快感」が三点セットになっている。

 ところがこの『TATARI』は、本来の意味での恐怖感などほとんどない。あるのは「ショック」と「不快感」だけ。もっとも単純で安上がりなホラー演出ですが、作り手側はその2点だけをぐいぐい観客に押しつけてくる。ショックで気持ちを動揺させ、そこで鼻先に不快な描写を押しつけてくるタイミングの良さ。そこから目をそらそうとすると、そこにはまた別のショックが待ちかまえているという二段構え三段構え。単純といえば単純ですが、これがじつに効果的。そのパワーに、こちらは観ていてクタクタになります。画面上で明滅する映像がストロボ効果を生みだして、小さな子供がテンカン発作を起こす可能性は「ポケモン」の比ではない。僕も頭がクラクラしです。重低音を生かした音響がビリビリと響き渡って、観客の横隔膜付近を直接マッサージ。僕は映画を観ているうちにお腹が痛くなってしまいました。

 僕自身はもう二度と観たくない映画ですが、「最近のホラー映画はちょっと生ぬるいぞ」と思っている映画ファンにはお勧めします。なるべく音響のいい映画館で観ると、不快感は三割増しになるでしょう。映画を観た後は食欲がなくなります。満腹で観ると吐きます。体調を整えてから観てください。ああ、すごく疲れた。

(原題:HOUSE ON HAUNTED HILL)


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