ソフィーの世界

2000/06/26 GAGA試写室
世界的なベストセラーとなった哲学小説の映画化。
脚色は失敗。これは原作のあらすじだ。by K. Hattori


 ノルウェーの高校で哲学を教えていたヨースタイン・ゴルデルの書いた小説「ソフィーの世界」は、主人公の少女の冒険を通して西洋哲学史を紐解いていく趣向が大受けで世界的な大ベストセラーになった。この映画はその人気小説の映画化。基本的には小説をそのままなぞっているのだが、情報量の多い原作を消化しきれず、かなり中途半端な仕上がりになってしまったと思う。原作の魅力は、小説を楽しみながら古代ギリシャから始まるヨーロッパの「知の歴史」をたどり、それに合わせて主人公ソフィーが人間的に成長し、彼女の周囲にある世界の秘密が少しずつ解き明かされていくという構成にあった。「ソフィーの世界」は小説である以前に、きわめて読みやすい「哲学入門」や「西洋哲学史概論」として受け入れられたのだ。実際、書店ではこの本が哲学・思想のコーナーに置いてあったものです。

 しかし映画では、原作にあった膨大な量の情報を伝えられない。物語仕立てで哲学の歴史をたどっていった小説は、哲学史というスパイスを振りかけたファンタジー映画になってしまった。哲学史の教科書としても中途半端だし、ファンタジー映画としてもミステリーとしてもかなり中途半端なものだが、これはひとえに脚色が悪い。物語の筋立ては基本的に原作に沿っているようだが、これは人物と設定だけを借りて、残りは大幅に創作するぐらいの意気込みで挑んでほしかった。

 物語は1通の手紙から始まるミステリーです。もうじき15歳になるソフィーが受け取った1通の手紙。そこには「あなたは誰?」とだけ書かれている。次の日、2通目の手紙が届く。そこには「世界はどこから来た?」と書かれている。こうしてソフィーは、深遠な哲学の世界へと足を踏み出していくのです。その冒険の中で、ソフィーと手紙の差出人アルベルトは、世界の秘密を少しずつ解き明かしていく。小説の場合はこれでいい。でも映画がそれをなぞるのは少々まどろっこしいぞ。アルベルトは世界の秘密について、もっと深く知っていてほしい。その上で、彼はソフィーに助けを求めるのです。ソフィーはアルベルトの教え子であり、同時に彼にとって欠くことのできないパートナーです。その関係性が、この映画ではまったく描けていなかった。

 原作は小説の中に小説が出てくるという面白さがあったわけだから、映画化するなら「映画の中に映画が出てくる」という趣向にしたってよかった。映画の登場人物が自分たちの境遇に気づき、創造主である監督や脚本家に反逆する話になっている方が、原作の面白さに近くなるし、映画の観客にとっては身近な話になるのではなかろうか。そうすれば「現実はイデアの影である」というプラトン哲学の説明も、フィルムとスクリーンという対比で明確になるし……。たぶん似たようなことは作り手も考えたのでしょうが、原作が大ベストセラーとなるとそうそう簡単には内容を変えられないのかも。

 ちなみに鏡のシーンはコクトーの『オルフェ』ですね。

(原題:SOFIES VERDEN)


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