ヒーロー・イン・チロル

2000/07/03 シネカノン試写室
チロルの自然を守るため、ヨーデル野郎が悪を倒す。
これはヨーロッパのマサラ映画だ。by K. Hattori


 馬鹿な映画である。でもこんなに馬鹿な映画をヌケヌケと作ってしまう奴らは偉いし、それをわざわざ買い付けて日本で公開しようという配給会社も偉い。この映画を一言で表現すると、「ヨーロッパ版マサラ映画」とでも言うしかないと思う。とてつもなく強い正義のヒーローがいる。美しく健康的なヒロインがいる。私利私欲に走る悪党がいる。悪党のどら息子はヒロインに横恋慕して、ヒーローを汚い罠に陥れようとする。ヒーローには腰巾着のような三枚目のコメディ・リリーフがおり、これがなぜかモテモテである。セックスがらみのくすぐりがあり、過去の因縁と陰謀があり、あっと驚く出生の秘密まで飛び出す。そしてこれはミュージカルだ。主人公は登場した早々に自分の気持ちを切々と歌いまくる。その土地のローカルな空気を感じさせるメロディとハーモニーが、現代的なロックのリズム合わせて次々と飛び出してくる。クライマックスは村祭り。女性たちは色とりどりの民族衣装で歌い踊る。最後はヒーローと悪党の戦い。そこにはカンフー映画のような、大げさな効果音が入り、殴られた悪党は大げさに吹っ飛んでいく。

 舞台はオーストリアのチロル地方にあるヒーロー村。この映画は「チロルの英雄」という意味だとばかり思っていたら、「チロルのヒーロー村」という意味だったのかしら。主人公のマックスは、この小さな村とチロルの自然を愛する男。しかし彼が一番愛しているのは、村の天使と異名をとるうら若き美女エマの微笑みだった。だがこの平和な村にも開発の魔手が伸びてくる。20年前に村を去った資産家がそのまま行方不明になり、彼の地所であった村そのものが、腹黒い野心を持つ村長の個人的な所有物になるという。村長は村に観光施設を作り、それが寂れたら産廃処理場に、さらには村をダムの下に沈めて電力で大儲けしようなどと長期計画を練りはじめる。この村長の野心に気づいたマックスは、野望を阻止すべく大活躍。同時にエマのハートもゲットする。

 登場する歌のほとんどは、チロル民謡のヨーデルがベースになっている。感動しようが笑おうが泣こうが怒り心頭に発しようが、歌う内容はいつだってヨロレイヨロレイヨロレリヒーなのだ。このあたりはもう笑うしかないんだけど、ほとんどの場合、かなり寒い効果しか上げていない。最初はかなりインパクトがあるんだけど、だんだん効果が薄れてきて、むしろヨーデルが鼻につくようになる。でも主人公たちがいよいよベッドインしたときにヨーデルが飛び出すのには、やはり笑ってしまう。ここは主人公たちに危機を伝えるバイクのばあさんの歌との掛け合いになっていて、バイクをぶっ飛ばすばあさんと今まさに身も心も一体になろうとする恋人たちを小刻みにカットバック。いよいよ結ばれた二人は、「ヨロレイ」「ヨロレイヒー」と愛の喜びを歌い上げる。

 先日試写を観た『サウスパーク』といい、世の中にはミュージカルが好きな人たちがいるもんなんですね。同じような映画を日本で作らないだろうか。

(原題:Helden in Tirol)


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