17歳のカルテ

2000/07/04 SPE試写室
アンジェリーナ・ジョリーがオスカーを受賞したヒューマンドラマ。
精神病院の中で本当の自分探しをする少女たち。by K. Hattori


 1967年。17歳のスザンナは大量のアスピリンとアルコールを摂取して病院にかつぎ込まれる。本人は「頭痛がしたから薬を飲んだだけ」と言い張るが、これは明らかに自殺未遂。自殺に至った原因は不明だが、彼女の精神状態がひどく不安定なものであることは、本人も自覚している。彼女は医者の薦めに従って精神病院に入院する。彼女はそこで自分と同年輩のさまざまな患者たちに出会い、人間が抱えている心の暗部を見せつけられることになる……。スザンナ・ケイセンが自らの入院体験を書き綴った回想記「思春期病棟の少女たち」に惚れ込んだウィノナ・ライダーが、自ら製作総指揮と主演を兼ねたドラマ。'71年生まれで間もなく30歳に手が届きそうなライダーが17歳の主人公を演じているが、彼女は背が小さくて体つきが華奢なこともあり、何となくそれらしく見えないこともない。

 最近は少年たちの犯罪が報道されるたびに「心の闇」という表現がマスコミに登場するが、僕はあまりこの言葉が好きではない。そもそも心に闇を抱えていない人間など存在するはずがないではないか。人間には自分ですら自覚することのできない「無意識」という領域があり、そこには得体の知れないモンスターが住み着いている。普通の人は、そうした闇にふたをして厳重にカギをかけ、心の中から闇を閉め出した気になっているだけだ。ところがこの映画に登場する患者たちは、そうした心の闇がポッカリと口を開けてむき出しになっているのです。心に巣くったモンスターは、そこから自由に出たり入ったりしているかのようです。普段はごくおとなしい人間が、ごく些細なきっかけで突然凶暴性を発揮したり、自分自身をひどく傷つけたりする。自分の心が自分でコントロールできないのは悲劇ですが、なぜコントロールできないのかさえ、彼女たちにはわからない。

 '60年代の閉鎖的な精神科病棟を舞台にしていることもあり、この映画から『カッコーの巣の上で』を連想する人も多いと思う。この映画で医者や看護婦たちに反抗するジャック・ニコルソンと似た役回りを演じるのは、アンジェリーナ・ジョリー演じるリサという女性。彼女は遠慮会釈なく、他人の心の奥深くまでずかずか土足で入り込んでくるような人間です。それはひどく乱暴だし、同時にそれが彼女の魅力でもある。主人公スザンナは最初リサを警戒するが、やがて彼女の魅力にすっかり心酔するようになる。この映画の語り手はスザンナですが、実際の主人公はリサだと思う。製作総指揮まで買って出たウィノナ・ライダーには悪いけれど、この映画はリサ中心に回っている。スザンナは狂言廻しです。

 これは『サウスパーク/無修正映画版』でも感じたことだけれど、映画の日本語字幕はなぜ劇中の差別的な言葉を曖昧にボカしてしまうのでしょう。この映画ではスザンナが黒人看護婦に向かって差別的な言葉をぶつける場面がありますが、それが字幕では幾分マイルドになっています。これだと和解シーンが弱くなると思うけど。

(原題:GIRL, INTERRUPTED)


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