U-571

2000/07/24 GAGA試写室
ドイツの潜水艦から暗号機エニグマを奪おうとする米軍潜水艦。
最初から最後までスリル満点の潜水艦映画。by K. Hattori


 『ブレーキ・ダウン』のジョナサン・モストウ監督最新作は、第2次大戦中の大西洋を舞台にした潜水艦アクションだ。1942年4月。大西洋上で航行不能になったドイツ軍潜水艦U-571の存在を察知したアメリカ軍は、Uボートに搭載されている暗号機エニグマを奪取すべく秘密作戦を開始した。アメリカの潜水艦S-33を救助用Uボートのように偽装して近づき、ドイツの軍服を着せた少数の兵士たちによる奇襲で敵のUボートごとエニグマを奪い取ってしまおうというのだ。しかし小さな潜水艦の中に、作戦用の兵士たちを乗せる余裕はない。作戦用に2名の指揮官を乗せた以外、実際の作戦遂行には潜水艦の乗組員たちが当たらなければならない。「我々は戦闘に不慣れな水兵です」と不安を口にする乗組員たちに、作戦を指揮する海兵隊将校は「敵も同じく戦いに不慣れな水兵だ」と返答する。立場は互角。ならば準備万端で不意打ちを仕掛ける我が方に有利。やがてS-33の視界に、敵船U-571が飛び込んでくる。

 映画の前半はUボート拿捕作戦を描き、映画の後半では敵の攻撃を振り切ろうとするS-33乗員たちの戦いぶりを描く二階建ての構成。マシュー・マコノヒー演じるS-33の副艦長タイラー大尉は、この作戦の直前、艦長への昇進を直属の上官であるダルグレン大佐に妨害されている。自分の昇進に反対した大佐は、「責任者である艦長には部下の命を使い捨てにする非情さが必要だ。部下思いの強いお前にはその非情さが持てるか?」とタイラーを諭す。その言葉の意味を、タイラーはこの作戦の中で幾度も噛みしめることになる。こうして「戦争という極限状態の中で成長して行く主人公」という定番のパターンが、この映画の中でも繰り返される。人命の重さと作戦の重さや、大勢の命を助けるために少数の命を犠牲にする痛み。もとより軍人として国のために命を投げ出す覚悟はできているが、自分以外の部下の命もすべて犠牲にする覚悟があるかと問われれば話は別。しかし戦場では、そうした究極の選択が何度も行われる。主人公はその中で、軍人としてたくましく成長する。

 話のアイデアは面白いし、どの場面もまずまずの演出。最後までドキドキしながら映画を楽しめます。しかし映画の中にあるアクションシーンの山場と心理的葛藤の山場がうまく描き分けられず、全体に少しのっぺりとした印象になってしまったのは残念。主人公をもっと精神的に追い込んでいくと、彼の苦渋の決断や、彼の成長ぶりがもっと浮き彫りになってきたと思う。こうなってしまった原因には、ひょっとしたら音楽も関係あるかもしれない。この映画は全体的に音楽が大げさすぎる。お芝居やアクションシーン以上に、音楽が出しゃばっている部分が多いように感じました。

 マシュー・マコノヒーは田舎出身の甘ちゃん坊やのような役が似合うのですが、この映画でも最初はまさにそうした役柄。それが戦闘の中でどんどん強くたくましくなっていきます。この役は彼の代表作になるでしょう。

(原題:U-571)


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