この胸のときめき

2000/07/25 UIP試写室
心臓移植から始まる移植のラブ・コメディ。中盤は最高!
女優ボニー・ハントの監督デビュー作。by K. Hattori


 テレビと映画でお馴染み『Xファイル』の主演スター、デビッド・ドゥカブニーと、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『理想の結婚』のミニー・ドライバーが共演するラブコメディ。映画ではドゥカブニーの名前が先にクレジットされていますが、日本の報道資料ではミニー・ドライバーの名前の方が先に出ている。日本の普通の映画ファンにとっては、ミニー・ドライバーの方がビッグネームということなんでしょう。監督・脚本は、本作が監督デビュー作となる女優のボニー・ハント。本人もヒロインの親友役で出演しています。この映画のテーマは心臓移植。事故で妻を失った男がその心臓を提供されて元気になった若い女性と偶然知り合い、心臓を巡るつながりを互いに知らぬまま強く惹かれ合っていく。原題の『RETURN TO ME』はディーン・マーチンが歌うこの映画のテーマ曲のタイトルだが、もちろんこれは妻を失った男が亡き妻の面影を追い求める気持ちと、彼女の心臓(ハート)が戻ってくるという話にひっかけたものだろう。これを単純にカタカナ邦題にせず、『この胸のときめき』というオリジナルの日本語題にしたのは上手い。「ときめき」とはもちろん心臓の鼓動のことだ。

 目と目があった瞬間に「この人こそ運命の人だ!」と確信する気持ちや、そのあと永久に続くのではないかと思われるほどの恋のときめきや喜びを、これほどストレートに描いた映画を久々に観た気分。登場人物がみんな善人で、妻を失った男や、心臓病で長年病院暮らしだった娘の幸せを後押ししようとする。この無条件の善意がじつに心地よい。主人公たちが知り合って交際を始め、どんどん親密さを増して行くくだりが全体の半分ぐらいあるのだが、僕はこの場面を観ていて、この幸せな場面が永久に続けばいいとさえ思ってしまった。ボニー・ハント、ジェームズ・ベルーシ、キャロル・オコナー、ロバート・ロッジア、デビッド・アラン・グリアなど、芸達者な俳優たちが主人公をぐるりと取り囲み、不器用なふたりの恋の行方をやきもきしながら見守る面白さ。この映画は、ここだけ取り出したら大傑作です。

 ただし不満な点も多い。初監督作品だから仕方ない面もあるのだが、導入部や結末など、物語のポイントとなる部分の描き方に下手くそな部分がある。主人公ボブと妻のエリザベスが「リターン・トゥ・ミー」で踊る場面から、音楽はそのままにして突然病院の場面につなぐのはいただけない。ここは一度スッパリと音楽を断ち切って、大けがをした妻が集中治療室の奥に消えたところからゆっくりと音楽を戻した方がよかったのではないだろうか。それにこの場面、なぜ彼らが大けがをしたのか、なぜ妻だけが死んでしまったのかもわかりにくい。

 ボブの死んだ妻の心臓がグレースに移植されたと知って皆がショックを受けるのは、心臓移植が健康な人の不慮の死という不幸の上に成り立っているからでしょう。エリザベスが死んだから、グレースは生きている。この残酷さも、もう少し明確に描いた方がよかったと思う。

(原題:RETURN TO ME)


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