黒いオルフェ

2000/07/26 GAGA試写室
ギリシャ神話の悲恋物語を現代に翻案した音楽映画。
リメイク版よりこちらの方が面白い。by K. Hattori


 つい昨年ブラジルで再映画化され大ヒットした『オルフェ』と同じヴィニシウス・ジ・モライスの戯曲を、最初に映画化したオリジナル版。今回は日本で初公開されて以来のオリジナル原語(ポルトガル語)版での上映。これまでリバイバル公開やビデオなどでは、すべてフランス語吹替版だったという。僕は新しい『オルフェ』を先に観ているのだが、映画としては40年前のこの作品の方が面白いと思った。同時になぜこの映画が40年後に再映画化されなければならなかったのかも、何となく理解することができた。再映画化された『オルフェ』のオープニングシーンが、じつは『黒いオルフェ』の中盤にあるカーニバルの朝の場面からの引用だということに気づいたり、ふたつの映画を比較するのは何かと面白い。

 再映画化された『オルフェ』は、主人公の歌手オルフェを中心にした物語だった。映画はオルフェの歌とギターに合わせるように、ゆっくりと夜が明ける印象的な場面から始まる。映画の中心は常にオルフェなのだ。映画を支配するのは、オルフェが紡ぎ出す甘美なメロディ。しかしこのオリジナル版『黒いオルフェ』では、主人公オルフェが登場して歌い出す前に、まずはカーニバルを控えたリオの町の喧噪をたっぷりと描写する。ピーカンの太陽が照りつける中で遊ぶ子供たち。人々はドラや太鼓で強烈なサンバのリズムを刻みながら町を練り歩く。ここではメロディより先にリズムがある。大勢の人々が勝手に打ち鳴らすパーカッションのリズムは、からまり合いながら大きなうねりとなって映画全体を覆い尽くす。このサンバのリズムが、観客の血を騒がせるのだ。港に船が到着すると、甲板を埋め尽くす人々も皆がリズムに合わせて身体を揺り動かす。この導入部は、まるでミュージカル映画のようだ。音楽担当はアントニオ・カルロス・ジョビンだが、彼の作り出した美しいメロディより、まずこの映画の主役はサンバのリズムそのものだ。

 オルフェとユリディスの悲恋という基本線は、『黒いオルフェ』も『オルフェ』も変わらない。しかしこの物語のルーツであるギリシャ神話の匂いを濃厚に維持しているのは、やはり『黒いオルフェ』の側だと思う。原作の戯曲は知らないが、たぶんこちらの方が原作に近いのだろう。都市中心部とスラムの対立や、スラムを牛耳るギャングたちといったモチーフは、再映画化された『オルフェ』の独創だったらしい。しかしこの独創が、かえってオルフェとユリディスの物語が持つ普遍性や力強さを損なってしまったようにも感じる。『オルフェ』は幕切れも暗かったが、『黒いオルフェ』には希望がある。

 『黒いオルフェ』は実際のカーニバル風景をロケ撮影したりしているのだが、肝心のカーニバルの場面は色彩感が乏しい。屋外の強烈な日差しのせいで、色彩がすっ飛んでしまったような印象。これはリメイク版に一日の長がある。40年の間にフィルムも機材も良くなっているから、屋外のロケ撮影など条件の厳しい撮影になればなるほど、新しい映画の方が有利なのだ。

(原題:ORFEU NEGRO)


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