NO FUTURE
A SEX PISTOLS FILM

2000/08/21 GAGA試写室
伝説のパンクバンド、セックス・ピストルズの実像を、
メンバー自身が語るドキュメンタリー。by K. Hattori


 神話と伝説に彩られたパンクバンド、セックス・ピストルズの実像を、バンドメンバー本人たちのインタビューと貴重な映像で描き出したドキュメンタリー。ピストルズが生まれた70年代当時のイギリスの社会情勢や音楽状況を、当時のニュース映像やテレビ番組などを引用しながら語る手法がユニーク。ピストルズが単なるバンドではなく、70年代後半のイギリスという“時代状況”と密接に結びつく中で登場した事情がよくわかる。階級社会のイギリスで、貧しい労働者階層から生まれてきたピストルズ。そのいらだち。その怒り。二十歳そこそこで定職もなく、万引きや盗みで生計を立てていた連中がどういうわけか音楽を始め、やがて社会全体を震え上がらせるような存在になる痛快さ。

 この映画からは、「むかしむかし、イギリスにセックス・ピストルズというバンドがあってね……」という回顧談にだけはしまいという、製作者側の強い意志が感じられる。描かれているピストルズは、常に現在進行形だ。使われている映像は、ピストルズが活動していた当時のものがほとんど。ジョン・ライドン(ジョニー・ロットン)、スティーヴ・ジョーンズ、ポール・クック、グレン・マトロックなどに新たにインタビューした部分もあるが、それらオリジナルメンバーの今の姿はシルエットでしか画面に登場しない。インタビューに答える彼らは、ピストルズ時代を20年たった今振り返るのではなく、まるで20年前に戻ったかのようにその時の心境を語っている。だから新しいインタビューと20年以上前の映像をシンクロさせても、まったく違和感がない。

 ただし唯一の例外は、メンバーたちがシド・ヴィシャスについて語る部分だ。ピストルズに途中から参加し、絶頂期の立て役者となったシド。恋人のナンシー・スパンゲンと麻薬に溺れ、最後は彼女を殺して自分も麻薬の過剰摂取で死んでしまったシド。彼について語るときのメンバーは、とても平常心を保てない。「あの時ああしていれば」とか「自分はこうすればよかった」という後悔が、今もメンバーの中には残っているようだ。「シドについて真面目に話せば泣き出してしまうだろう」と語りながら声を詰まらせるジョン・ライドンのシルエットが、既に泣いているように見えるのが印象的だ。

 僕はピストルズをリアルタイムに聴いて育った世代ではないし、その後も特にファンではない。だからこの映画を観ても、有名バンドの舞台裏や真実を知ることができて面白いといった興味の持ち方はしなかった。僕がこの映画から感じたのは、自分が生きたいように生きることの困難さや、思ったことを好きなように表現することの危うさだ。たとえ心の中では誰もが考えていることでも、それを公衆の面前で口に出すのがはばかられる事柄というものがある。場所柄に応じた言葉遣いを身につけるのが、社会の良識というものだ。だがピストルズはそんなことに頓着しない。テレビで四文字言葉を喋るのも、女王陛下をこき下ろすのも、じつはすごく大変なのに。

(原題:The FILTH and the FURY!)


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