ekiden

2000/08/23 東映第1試写室
大学駅伝部のライバルが社会人になって取る道は……。
なかなか感動的な青春スポーツ映画。by K. Hattori


 駅伝とマラソンという、日本人の好きな2大陸上レースをモチーフにした青春映画。田中麗奈が大学駅伝部のマネージャー役で出演しているが、これは完全な脇役扱い。監督はこれがデビュー作の浜本正機、主演の伊藤高史と中村俊介も映画ではあまり馴染みのない顔ということもあって、内容的にもかなり不安があったのだが、試写を観てみればこれが素晴らしいでき。新人監督の作品で「応援しなくては」と思わせる作品は、『ジュブナイル』に続いて今年2本目だ。(『ホワイトアウト』の若松節朗監督や『しあわせ家族計画』の阿部勉監督も新人だけど、まあそれはそれとして……。)新人監督の作品ということもあってか、筋運びに段取りの悪いところもあるし、演出にクサ味を感じてしまうところもある。それでもこの映画には、観る者の心を熱くさせる本物の熱気が感じられる。こんな映画は、今の日本映画界じゃ年に何本も観られやしない。これは注目作です。

 大学駅伝部のチームメイトだった岬荘介と早川義彦は、大学卒業後まったく対照的な進路を選ぶ。荘介は往年の名チームだった横須賀造船駅伝部の復活をかけて、仕事の合間に社内でチームメイト探しに奔走し、義彦はオリンピック候補のマラソン選手としてスポーツ用品メーカーのランテックに入社してマスコミの注目を浴びる。トラック競技ではまったく二流なのに、駅伝ランナーとしては独特のねばり強さとスピードを発揮する荘介がこの映画の中心人物。憧れの駅伝部が前年廃部になったと知った荘介は、持ち前のねばり強さと明るさで周囲の人々を説得し、一人ずつ部員を増やしていく。

 大学の駅伝選手だった荘介が、社内でたまたまみつけた素人ランナーを牽引して大会に出場するという話だから、荘介の走りっぷりが明らかに他の出演者と違っていなければ話がおかしなことになる。この映画では主演の伊藤高史と中村俊介が撮影開始前に走りの特訓を受け、短期間のトレーニングながらそれらしい走りを身につけている。この点が、同じ東映配給の映画でも『ピンチランナー』とは違うところだ。レースシーンでは主演ふたりが、他の選手たちと遜色のない走りを見せます。

 駅伝とトラック競技としてのリレーの違いは、ひとりひとりの選手からは、前後の選手の走りやゴールが見えないところにある。選手たちはそれぞれが精一杯の力を出し切り、次の選手へと1本のたすきを渡していく。走るときは一人でも、その選手は1本のたすきを通して、他の大勢の選手とつながっている。この「みんなで走る」という実感こそが、この映画のテーマだ。クライマックスのレース場面で腹の底から感動がこみ上げてくるのは、「みんなで走る」というこの映画のテーマが、観ている側にきちんと伝わっているからに他ならない。

 田中麗奈の役は本当に脇役で、他の誰がやっても似たようなもの。でも彼女も『がんばっていきまっしょい』でボートを漕いだ体育会系少女。他の女優では、このキャラクターは別のものになっていたと思う。


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