ウーマン・オン・トップ

2000/09/11 FOX試写室
テレビ料理番組のスターになったブラジル美女の恋の行方。
ペネロペ・クルスのハリウッド初主演映画。by K. Hattori


 『オープン・ユア・アイズ』『イフ・オンリー』『オール・アバウト・マイ・マザー』などでチャーミングな魅力を振りまいていたスペイン美女、ペネロペ・クルスのハリウッド映画初主演作。幼い頃から料理の腕に関しては天才的な才能を持つイザベラは、ブラジルのバイアに夫トニーニョと小さなレストランを持ち、幸せに暮らしていた。だが愛する夫がこっそりと浮気。それにショックを受けたイザベラは、意を決してひとりアメリカに渡り、テレビ料理番組のスターになる。一時の浮気心で愛する妻を失ったトニーニョも、妻を取り戻すためにアメリカへ。テレビでイザベラの姿を見た彼は、仲間と一緒にテレビ局に乗り込んで行くのだが……。

 映画の導入部は100点満点のでき。乗り物酔い癖のある小さな女の子が料理の腕を磨き、やがて美しく成長して世界に飛び出そうとした矢先に恋に落ちる。ふたりは結婚。幸せな生活、夫の浮気、アメリカへの旅立ちまでを、ヒロインの幼友達のナレーションで一気に見せてしまうテンポの良さ。音楽はサンバとボサノバ。BGMだった音楽が徐々に高まり、イザベラに向かってトニーニョが歌い出すくだりなどは、まるでミュージカル映画のよう。『ウーマン・オン・トップ』という映画タイトルの由来にもなっている夫が浮気理由も、なんだか馬鹿馬鹿しくて、それでいて切実そうで、でもなんだか贅沢な悩みのようで、笑わせるし人を食っている。このあたりまでは、画面から「映画の魔法」のオーラが伝わってきて、僕は映画にずんずん引き込まれたし、この映画がとても好きになるだろうという予感があった。こういう予感は、恋の始まりに似ている。第一印象が肝心です。

 ところがこの映画、ヒロインがアメリカに渡ってからは導入部の魔法が解けてしまう。話そのものは面白くなりそうなのに、なぜか映画は吸引力を失ってしまう。その理由がどうもわからないのだが、海の女神イマンジャの呪いが、やや中途半端な扱いになってしまったのが原因かもしれない。映画の中では、主人公に料理の才能を与えたのもイマンジャ、主人公に夫を忘れさせたのもイマンジャ、夫のレストランが潰れたのもイマンジャの呪いで、最後にハッピーエンドになるのもイマンジャのおかげだ。この女神を前面に出すことで映画をファンタジーにしてしまえばよかったのに、この映画の中の女神は、ブラジル人が信じる迷信のように描かれてしまった。

 ヒロインが魔法で料理の天才になるという映画は、つい最近も『バニラ・フォグ』という映画があったばかり。『バニラ・フォグ』では不思議なカニが、主人公の料理の腕前を上げ、流行らないレストランに客を呼び、ヒロインを運命の恋に導いて行く。これは面白かったし、僕は大好きな映画。この映画のいいところは、全編が素敵なファンタジーになっていたところだ。『ウーマン・オン・トップ』も外観はファンタジーでコーティングしてあるのだが、それが所々はげ落ちている。ペネロペ・クルスは好演しているので、ちょっともったいない。

(原題:WOMAN ON TOP)


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