流星

2000/09/25 映画美学校試写室
レスリー・チャン主演でチャプリンの『キッド』をリメイク。
物語の前提に疑問がありすぎ。by K. Hattori


 チャップリンの名作『キッド』を現代の香港の物語に翻案した、レスリー・チャン主演のヒューマンドラマ。香港金融界で腕っこきのトレーダーとして知られるウェイは、株価暴落のあおりを食って仕事も金も恋人もすべて失ってしまう。傷心のウェイが住まいを兼ねた豪華ヨットに帰ってみると、そこには生まれたばかりの赤ん坊が捨ててある。とても面倒をみきれないと思うウェイだが、彼は結局この赤ん坊の親代わりになる。

 話の流れは基本的に『キッド』のままで、うまく香港の話に翻案してあると思う。主人公がもと金融トレーダーという設定はいかにも経済都市の香港らしいし、主人公を浮浪者ではなくその日暮らしの生活をしている男にしたのも面白い。ただし『キッド』との時代性の違いで、ずいぶんと無理もしている。特にその無理が多いのは、映画の導入部分だ。導入部にこれだけ引っかかる点が多いと、その後も何かと難渋してしまう。

 最大の無理は、男が拾った赤ん坊を改めて捨てようとする場面。これは『キッド』にもあるユーモラスなエピソードなのだが、現代の観客がこれを観ても「なんで警察に行かないの?」と疑問を持ってしまうだろう。オリジナル版の『キッド』ではこのあたりをじつにうまく処理して、主人公が赤ん坊を警察に持ち込めない理由を観客に納得させている。あと気になったのは、赤ん坊がヨットに捨てられているくだり。戸締まりがどうなっていたのかよくわからないし、その日ヨットに誰も戻ってこなかったらどうなっていたのだろうか。母親が赤ん坊を捨てなければならなかった理由も、いまひとつ釈然としない。これもオリジナルの『キッド』はわずか数シーンを使って簡単に説明しているところなのに、この『流星』では回りくどい割には要領を得ない。

 いささか不手際の目立つ導入部さえ片目をつぶっていられれば、この映画はまずまず面白い。何よりいいのは、4歳に成長した赤ん坊ミンを演じたエリクソン・イップの自然な演技。時に演技の枠組みから離れてしまいそうになる彼の動作を、ベテランのレスリー・チャンがしっかり受け止めて独特の雰囲気を作っている。ウェイの住まいの近くで、私設老人ホームを運営する未亡人ランと、彼女に密かな思いを寄せるルン巡査のエピソードもほほえましい。ミンの母親のエピソードがあまり面白くないので、本来は脇筋だったランとルン(こうして並べて書くとなんだかすごいね)のエピソードがこの映画の柱になっているような印象すらある。

 ミンの母親リャンは子供を捨てた後、結婚して今は大富豪になっている。ところが映画の中には、リャンの夫が一度も登場しない。これがいかにも不自然なのだ。リャンは結婚した後、捨てた我が子を探す努力をしたんだろうか。そのあたりも、映画を観る側としては首をかしげてしまう。ほんの1行か2行の台詞で事足りることなんだから、最低限の説明はあった方がいいと思うけど。まぁそれも、子役の可愛さに免じて許されるのかな。

(原題:流星語・THE KID)


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