餓狼の群れ

2000/10/02 東映第1試写室
松方弘樹が中国人マフィアの秘密カジノから現金を奪う。
あまりにも安っぽすぎる。ちょっと悲しい。by K. Hattori


 時代劇スターの近衛十四郎を父に持ち、自らも東映時代劇で白塗りの美少年スターとして人気のあった松方弘樹。その後は時代劇映画の凋落にあわせて活躍の場を実録ヤクザ路線やテレビ時代劇に移し、今でもスターの貫禄を漂わせている男。その彼が、こんな映画に出るなんて……。まがりなりにも一度は東映の屋台骨を支える人気スターだった人が、新宿トーアで2週間限定公開という、まるでVシネに毛が生えたような映画に主演するという残酷さ。しかもこれが高島礼子主演の『極道の妻たち/死んで貰います』のような傑作ならまだしも、映画の中身までVシネ程度だから泣けてくる。「出る作品選べよ!」と言いたい気持ちにもなるが、そもそも今の松方弘樹クラスの役者では、出る作品を選べないのが現実なのだろう。同世代の東映育ちには、梅宮辰夫や山城新吾がいるが、それぞれ実業家、あるいは映画監督、もしくはテレビのバラエティー番組やワイドショーのコメンテーターとして活躍中。しかし松方弘樹にはそうした商才に縁遠く、離婚騒動もあってダーティなイメージが染みついてテレビにも出にくいというハンデがあるのかもしれない。それにしてもこの映画はひどいよ。

 主人公の唐木丈二は相棒の若い刑事・倉橋を麻薬事件の捜査中に失うが、上司の田沼が死んだ倉橋刑事を汚職警官扱いするのに反発して警察を辞職する。その後、妻子とも別れて無為な日々を送る唐木に、中国マフィアの秘密カジノを襲撃する計画に加わってほしいという依頼が舞い込む。唐木はこの計画に乗って、2億円の現金と同額相当の覚醒剤を奪うことに成功。だがこの計画の裏で糸を引いていたのは、倉橋を殉職に追い込んだ上に罪を着せ、その死に不審を抱いた唐木を辞職に追い込んだかつての上司・田沼だった。唐木は死んだ倉橋の姉・萌と組んで、田沼への復讐に動き始める。

 この映画の欠点は、松方弘樹に貫禄がありすぎること。何度も言うようだが、これは松方弘樹が出るような映画じゃないのだ。悪役の田沼を演じるのは萩原流行。萌を演じるのは高島礼子。どちらも松方弘樹に比べると、二枚も三枚も格下の役者じゃないか。もし松方弘樹にこの主人公を演じさせるなら、相手役には彼と肩を並べても引けを取らない役者を連れて来なきゃ釣り合いがとれない。もしくは主人公の側に何らかのハンデをつけて、松方弘樹が演技に新境地を開くぐらいのつもりでいないと、この物語の中では彼だけがひとりで浮いてしまう。

 松方弘樹は正攻法の役者だ。小細工は似合わない。小細工が通用するほど軽くないし、小細工につきあえるほど器用でもない。松方弘樹は俳優じゃない。彼はスターなのだ。スターはどんなに小細工を使っても、自分の周囲を自分の色に染めてしまう。彼が主演に決まった段階で、脚本も演出も彼に合わせなければならない。松方弘樹は自分から映画に歩み寄ることはできないのだから、映画が彼の側に合わせるしかないのだ。それがスターというものである。なのにこの映画はなんだ?


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