ジャニス・ベアード 45WPM
(公開題:ジャニスのOL日記)

2000/10/04 徳間ホール
生まれながらの嘘つき娘が産業スパイ事件に巻き込まれる。
十分面白いけど、もっと面白くなるはず。by K. Hattori


 今年の東京国際映画祭はコンペ部門の出品規定が改まり、新人発掘的な意味合いが強くなった。この映画はそのコンペ部門に出品されるイギリス映画。大映の配給で来年春に公開されることが決まっているが、映画祭に合わせて監督が来日するため、マスコミ向けに試写会が行われた。監督・脚本のクレア・キルナーは、テレビ出身でこれが映画監督デビュー作。主人公ジャニス・ベアードを演じるエイリーン・ウォルシュも、舞台出身の新人女優。脇役にはパッツィ・ケンジットやリス・エヴァンスが出演しており、薄っぺらな物語にベテランの味を出してます。スタッフやキャストのほとんどが女性という映画ですが、「女性だから!」「女性のために!」というメッセージ性はあまり感じられない。単純明快、痛快無比、加えて情緒不安定な娯楽作です。

 主人公ジャニスは天性の嘘つきだ。だがそれは彼女を生むと同時に広場恐怖症になり、家から一歩も出ようとしない母を持つ娘にとって、生きていくために必要なものだった。ジャニスは家の外がどんなに楽しいものか、どんなに楽しさや冒険や喜びや美しさに満ちているものかを母親に一生懸命話し、何とか家の外に引っぱり出そうとする。一生懸命さのあまりついつい話が大げさになるのも人情というものだし、そんな暮らしを20年も続けていれば、すぐ話が大げさになる癖が習い性になってしまうのも仕方がない……。もっともジャニスのこの悲しい生い立ちも、嘘つきジャニスの話すことだから、どこまでが本当なんだかさっぱりわからないのだけれど。

 この“嘘つきジャニス”が友達の紹介でロンドンの自動車会社に職を得て、産業スパイ事件に巻き込まれてしまうからさあ大変。メールボーイのシェーンがライバルメーカーのスパイだとも知らず、ジャニスは彼に熱を上げてしまう。こうして病的な嘘つき娘のジャニスと、情報を探るため嘘をつくシェーンが恋に落ち、嘘に嘘を重ねたラブストーリーが生まれる。この映画の欠点は、この魅力的なキャラクターとアイデアを、十分に生かし切れていないことだと思う。この話ならギャグをあと3倍ぐらい突っ込めるはず。ジャニスの嘘が映像化されてダニー・ケイの『虹を掴む男』のようになっても面白いし、嘘つき同士が互いに自慢話やウンチクを語っているうち、会話がどんんどん脱線していくのも面白いかもしれない。嘘が別の嘘を呼んで収拾がつかなくなったり、逆に嘘をみんなが信じ込んでしまったり。映画の中にはそうしたギャグの「芽」があるのですが、それがうまく育って大輪の花を咲かせるには至っていない。それが残念。

 例えばサルサ教室の場面も、ジャニスとダンス教師やシェーンの踊りをもっと大胆に格好よく描けば、会社の同僚たちが彼女に一目置くという話にもっと説得力が出たし、映画の見どころにもなったはず。話も面白いし、登場人物も魅力的なだけに、こうした小さいところで「もうちょっとがんばればいいのに」と思わせてしまうところが観客としても悔しかったりする。

(原題:JANICE BEARD 45WPM)


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