ひとめ惚れ

2000/10/05 TCC試写室
マギー・チャンとレオン・ライ主演の恋愛ドラマ。
等身大のキャラクターが魅力的。by K. Hattori


 ピーター・チャン監督の『ラブ・ソング』で主演カップルを演じたマギー・チャンとレオン・ライが、再び共演したラブ・ストーリー。『ラブ・ソング』の舞台はニューヨークだったが、今回はサンフランシスコが舞台。レオン・ライ('66年生まれ)演じるマイクは33歳、マギー・チャン('64年生まれ)演じるエレンはそれより2つ年上の35歳という設定。これは撮影当時のふたりの実年齢と同じだ。仕事も恋も一通りのことは経験してきた男と女が、手探りしながら新しい恋にチャレンジして行く様子が等身大で描かれていて好感が持てる。

 サンフランシスコでタクシー運転手として働くエレンは、10歳の息子を女手ひとつで育てているシングルマザー。ソフトウェア技術者のマイクは、従兄弟と一緒にソフトウェア会社を経営する独身男。ふたりは独身者が集まるバーで知り合い、間もなく同棲するようになる。周囲の友人たちも、そんなふたりを祝福する。だがマイクの会社が経営難に陥ると、彼は仕事にかかりきりになり、ふたりの関係はギスギスしたものになってしまう。

 エレンとマイクが知り合ってすぐに関係を持ってしまうとか、特に何の障害もなくすぐに同棲生活を始めてしまうとか、ドラマの盛り上がりになりそうな「障害の克服」という要素がほとんどない映画です。カップルの前に何かしらのハードルを置いて、ふたりがそれを力を合わせて飛び越えていくというのがラブストーリーの基本パターンですが、この映画にはほとんどそういう部分がない。でも世間の普通のカップルには、そんな障害なんて滅多にないわけだから、等身大のラブストーリーを狙ったこの映画はこれで構わないと思う。そもそも30代も半ばになれば、好いた惚れたでジタバタする以前に、自分の生活もあるし仕事もある。相手と一緒になるためにすべてを投げ出してまっしぐらに突っ走るにしては、少々分別が身に付きすぎている。このふたりがとりあえずセックスしてみたり、とりあえず同棲してみたりする様子は、恋愛にたくさん夢を見られる若い人には少々物足りない行動に見えるかもしれない。でもこの世代になれば、むしろこうした行動の方が普通だよ。

 この主人公たちは変化を望んでいないのです。恋をすることで人間性が一変してしまったり、人間的に大きく成長していく人もいるし、そういう映画もたくさんある。でもこの映画の主人公たちは、30数年間の生活の中で身につけた生活スタイルを変えるつもりはない。彼らが惹かれ合うのは、もともとふたりが似た人間だからです。それはふたりの服装からもわかる。ジーンズにTシャツにブルゾンという、ラフな格好が似合うふたり。エレンの趣味は絵を描くことで、マイクは職人肌のソフトウェア技術者。自宅のインテリアのセンスなども似ている。似た者同士だから、仕事や生活リズムが違っても一緒にいられる。バツイチの女タクシー運転手とソフト会社社長の恋という体裁にはなっていますが、このふたりはそんなにかけ離れた世界に住んでいるわけではないのです。

(原題:一見鐘情 Sausalito)


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