ダンサー・イン・ザ・ダーク

2000/10/06 ル・テアトル銀座
ラース・フォン・トリアーのカンヌ映画祭パルムドール受賞作。
観終わって非常に不愉快になる映画。by K. Hattori


 『奇跡の海』や『キングダム』シリーズで知られるデンマークの奇才ラース・フォン・トリアーが、念願のカンヌ映画祭パルムドールを受賞した最新作。1950年代頃のアメリカを舞台に、チェコから移民してきたシングルマザーが苦労に苦労を重ねながらどんどん不幸になっていく様子を、例のごとくネチネチと粘っこい演出で描いて観客をたまらなく不愉快にさせるミュージカル・トラジェディー。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』というタイトルは『バンド・ワゴン』の中の名曲「ダンシング・イン・ザ・ダーク」のもじりだろうが、これはヒロインのセルマが徐々に失明し、暗闇の中で自分がミュージカルの主人公になる幻想を観ることを表している。主演は歌手のビョークで、彼女はこの映画でカンヌ映画祭の主演女優賞を獲得。音楽も彼女が担当している。セルマの親友キャシーを演じているのは、『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』のカトリーヌ・ドヌーブ。他にはデビッド・モースやピーター・ストーメアが脇を固め、『ヨーロッパ』『奇跡の海』のジャン・マルク・バール、『奇跡の海』のステラン・スカルスゲールド、『キングダム』のウド・キアーなど、フォン・トリアー作品で馴染みの顔ぶれが次々に登場する。

 「正直者が馬鹿を見る」という言葉があるが、この映画は文字通りそれを映像化したらそうなりましたという作品。遺伝的な眼病で徐々に失明しつつあるセルマは、愛する一人息子のジーンにも病気が遺伝していることを知り、せめて息子だけでも失明から救い出そうと手術費用をコツコツと貯め込んでいる。倹約に倹約を重ねる質素な生活。しかし間もなく手術費用が溜まるという時になって、セルマの視力は急速に衰えてくる。内職や夜勤もして、なんとかお金を作ろうとするセルマ。失明の恐怖を息子に味わせたくない彼女は、自分の失明のことも、息子の手術費用を貯めていることも、一言も周囲に漏らそうとしなかったのだが……。

 愛ゆえにあえて不幸や破滅の中に突き進んでいくヒロイン像は、『奇跡の海』にも通じるものがある。だがこの映画には『奇跡の海』のような“奇跡”や“救い”は訪れない。最後に主人公たちの頭上で、高らかに鐘が鳴り響くハッピーエンドはあり得ない。この救いのなさ。このどうしようもない不快感。彼女は自分の行為を誰からも理解されず、彼女の努力や愛はひとつも報われることがない。『マグノリア』を観て「こんなの嘘だ。こんな救いがあり得るはずがない」と憤慨した人にとって、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は打ってつけの映画だろう。この映画には奇跡も救いもないからだ。これこそが現実の人生。ミュージカルシーンで歌って踊ってハッピーになるなんて、そんなことは幻想の中だけの話。現実の世界は辛く厳しく残酷なものだ。でも僕はこんな映画は嫌いだ。残酷で冷酷な世の中の現実を観たいなら、新聞の三面記事やテレビのワイドショーを観ていた方がいい。僕はこの映画を観てウンザリしてしまった。

(原題:DANCER in the DARK)


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