ぼくの国、パパの国

2000/10/11 映画美学校試写室
父はパキスタン人、母はイギリス人。子供は7人。
'70年代の英国が舞台のホームドラマ。by K. Hattori


 1970年代のイギリスを舞台に、パキスタン人の父とイギリス人の母、そして7人の子供たちがにぎやかに暮らす様子を描いたホーム・ドラマ。映画はカトリックのお祭りの様子から始まる。祭りの行列で十字架やマリア像を運ぶカーン家の子供たち。だがその行列を父親が見物していると知ると、子供たちは突然裏道を通って見物の父親をバイパスし、少し先で再び行列に合流する。パキスタン人の父親は敬虔なイスラム教徒で、子供たちにもイスラムの教育をしている。その子供たちが地元の子供に混ざってカトリックのお祭りに参加するなど、父にとってはとんでもないことなのだ。次の場面は結婚式。カーン家の長男ナジルは、父親の決めた結婚相手を目の前にして、突然会場から逃走してしまう。この冒頭の2つのエピソードだけで、この一家の中での父親の立場や、母親や子供たちの立場が明確になる。

 父親はイギリス暮らしをしながら、自分の家の中にではパキスタン人の生活を守りたい。そこでは父親が絶対で、妻も子供たちも父親に従わねばならない。そうすることが一家の幸せにつながると信じている。実際、何も疑うことなく父親の言うとおりにできれば、それはそれで幸福な人生が送れるだろう。だがブラッドフォードのパキスタン人街に住むことを拒み、マンチェスターのソルフォードでイギリス人たちに囲まれて生まれ育った妻や子供たちは、それぞれがイギリス流の生活習慣や考え方に馴染んでいる。父親を家の中では一応は尊重しているし、父の考えは子供たちにもわかるのだが、父の願う生き方を受け入れることはどうしてもできない。

 カーン家の中では、互いに決して妥協することのないふたつの文化がぶつかり合っている。これが他人同士なら「はいはい、そういう考えもありますね。でも僕は別の考えですから、そこんとこヨロシク」で済ませるのが一番穏便な態度だろう。しかし問題は家の中で起きている。宗教の問題、言葉の問題、食べ物の問題、結婚の問題など、同じ家の中でひとつの家族として暮らしていれば、「あなたはあなた、わたしはわたし」では済まされない。どうしたってそこには衝突や葛藤が生まれる。この映画の原題は「東は東、西は西。ふたつが出会うことは決してない」というキプリングの詩から採られているという。でも幸か不幸か、カーン家の中では否が応でもふたつの文化が出会ってしまった。

 原作は'96年からイギリスで上演されている舞台劇で、内容は作者のアユーブ・カーン=ディンが自らの生い立ちをもとにして書き上げたものだという。映画用の脚本もカーン=ディンが書いている。新人監督のダミアン・オドネルは物語を進歩的な若者と保守的な大人のジェネレーション・ギャップとしてとらえ、どの時代のどんな家族の中にもある普遍的な親と子の対立として描くことに成功している。父親役のオーム・プリーはハリウッド映画でも活躍するインド人俳優。これがうまい。母親や子供たちを演じた俳優たちも、ぴたりとはまっている。

(原題:east is east)


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