プロデューサーズ

2000/10/12 シネカノン試写室
舞台の失敗を目指すプロデューサーたちの悪巧み。
劇中劇「ヒトラーの春」は衝撃的。by K. Hattori


 '68年製作のメル・ブルックス監督デビュー作。翌年のアカデミー賞では脚本賞を受賞するなど、コメディ映画として評価の高い作品だが、どういうわけか日本では今まで劇場未公開だったという。ブロードウェイでは舞台化もされるというから、映画の格としては『雨に唄えば』や『グランド・ホテル』『サンセット大通り』などと同じ評価が与えられていることになる。劇中劇「ヒトラーの春」は一度観たら忘れられないトラウマのような衝撃を観客に与え、この劇中劇観たさにこの映画を繰り返し観る人がいるというのもうなずける。ブロードウェイの舞台化という話も、「この劇中劇を本物の舞台で観てみたい!」という発想だと思う。

 映画の中身は、ショービジネス界の内幕を描いたバックステージもの。プロデューサーを中心にして、作家や演出家、出演者たちがミュージカルを作り、初日の幕が開いたところでクライマックスという、『四十二番街』以来の古典的な構成です。しかしこの映画が変わっているのは、普通の映画なら登場人物たちが舞台の成功を目指して努力を重ねるのに対し、この映画の主人公たちは舞台が失敗することを目論んでいること。

 主人公である二人のプロデューサーは、出資金詐欺を企てているのです。この業界では、舞台が成功すればプロデューサーは利益を出資者と分配するのが決まり。でも舞台が失敗すれば、お金は返す必要がない。最初から出資金を多めに集め、舞台を見事大コケさせてしまえば、出資金はそのまま自分たちのフトコロに残る。二人はショーを失敗させるため、最悪の脚本と最悪の演出家、最悪の出演者を集めて、史上最悪の舞台を作ろうとする。白羽の矢を立てられたのが、「ヒトラーの春」というナチス礼賛に満ちた素人脚本。演出家はここ何本もヒットと無縁の勘違い芸術家タイプ。主演の俳優はオンチでしかもバカ。これだけマイナス要素そろえば、舞台は失敗間違いなしと思われたのだが……。

 この映画の最大のアイデアは、劇中劇「ヒトラーの春」に尽きる。映画界でも舞台の世界でも、アメリカのショービジネス業界はユダヤ系の人たちが多い。この映画を作ったメル・ブルックスもユダヤ人。主人公たちもおそらくはユダヤ系という設定でしょう。その中でヒトラー礼賛のミュージカルを上演すれば、舞台が総すかんを食って大失敗することは100%間違いない。主人公たちはそれには飽きたらず、念には念を入れて1000%の失敗を目指す。その結果、マイナスとマイナスが掛け合わされてプラスに転じてしまうという面白さ。

 序曲に続いて始まる大レビュー「ヒトラーの春」。ナチスの親衛隊がタップダンスを踊り、カメラが真上からダンスを見下ろすと、そこには人文字でハーケンクロイツが描かれてクルクル回るという馬鹿馬鹿しさ。バズビー・バークレーを明らかに意識したこのミュージカルシーンだけでも、この映画はアメリカ映画史に残るだろう。僕もこれを楽しみにしてました。観られて幸せ。

(原題:The Producers)


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