悪いことしましョ!

2000/10/19 徳間ホール
ブレンダン・フレイザーが悪魔パワーで大変身。
十分楽しいけど最後のオチが弱い。 by K. Hattori


 『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』で二枚目スタートして大ブレイクしたブレンダン・フレイザーだが、彼の本来の役回りはマヌケで冴えない三枚目だ。『原始のマン』『ハードロック・ハイジャック』『ジャングル・ジョージ』『タイムトラベラー/きのうから来た恋人』などなど、どれもこれもちょっとマヌケ。彼にしっかりした演技力があることは『GOD AND MONSTERS』でも立証済みだが、それとて「雇い主の嗜好や目的がいまひとつよく飲み込めてない若造」という設定だった。今回の『悪いことしましョ!』は、そんなブレンダン・フレイザーにピッタリの映画。会社でも私生活でも周囲に馴染めずバカにされっぱなしの青年エリオットは、突然目の前に現れた悪魔と契約して7つの願い事を許される。願いがすべて実現したら、彼の魂は悪魔に引き渡されるのだ。ところが相手は悪魔だから、そう簡単に願い事を実現させない。形式的にはエリオットの望みを実現するように見せかけながらあちこちに落とし穴を作り、7つの願いをことごとく浪費させようとする。

 悪魔を演じているのは『オースティン・パワーズ』『エドtv』のエリザベス・ハーレー。演技力云々ではなく、存在感だけで周囲を威圧する役だ。悪女の比喩としての悪魔や、悪魔の下で働く魔女ではなく、文字通りの悪魔が女性の姿で登場する映画は珍しいと思う。人間が悪魔と契約して願いをかなえる話は中世のヨーロッパで生まれたもので、その集大成はファウスト博士の物語。人間と悪魔の契約という設定を現代に翻案し、コメディ仕立てにしたのが、グエン・バードン主演のミュージカル『くたばれ!ヤンキース』だ。今回の『悪いことしましョ!』では、随所に赤を使った悪魔のファッションセンスに『くたばれ!ヤンキース』の影響が見られる。

 ブレンダン・フレイザーが悪魔の力で何度も変身して行くのが映画の見どころ。ある時は南米コロンビアの麻薬王、ある時は繊細でナイーブな文学青年、ある時は巨漢のバスケット選手、その他いろいろ……。フレイザーの変身ぶりと、夢に見た人生のこどにどんな落とし穴が待ち受けているか、時に奇抜で時にベタなアイデアがたっぷり盛り込まれていて楽しめる。

 主人公がこうした別人性を遍歴することで、人間として成長して行くというお決まりのパターン。ちょっと不満なのは、主人公が悪魔に出会う前の実生活で抱えていた問題がどんなもので、その問題が悪魔の与えた7つの人生の中でどう主人公に認識されていくかという点が、ちょっとわかりにくいこと。結局この映画は、エリオットの地獄巡りだけが面白くて、彼の成長ぶりにはあまり共感できないものになってしまっている。

 監督は『アナライズ・ミー』のハロルド・ライミスだが、僕はこの人の映画だと『恋はデジャ・ブ』だけが面白くて、あとはどれもイマイチなんだよなぁ……。これで最後のオチがきれいに決まれば、よかったのに。脚本は『アナライズ・ミー』のピーター・トラン。残念。

(原題:BEDAZZLED)


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