アタック・オブ・ザ・
ジャイアント・ケーキ

2000/11/20 TCC試写室
UFOの怪電波で巨大化したムサカが人々を襲う。
巨大ケーキは出てきません。by K. Hattori


 怪しいギリシャ映画。そもそもこの邦題が怪しい。巨大ケーキが人間を襲う映画かと思いきや、ここに登場するのは有名なギリシャ料理“ムサカ”です。僕は食べたことがありませんけど、油で揚げたナスの薄切りと挽肉を何層にも重ね、オーブンで焼き上げたグラタンみたいな料理だそうです。どう考えてもこれを「ケーキ」と呼ぶのは苦しい。映画の中でもちゃんと「ムサカ」と言っていますし、作るところも出てくるし、最後にはレシピまで紹介されているのに、なんでこれを「ケーキ」と称するのかよくわからない。ご丁寧なことに、プレス資料の中にもしっかり「ケーキ」と書いてあって、『ギリシャの熱帯夜を生クリームを撒き散らしながらうねうね歩くジャイアント・ケーキ』とか、『人類を生クリームとチョコレートの阿鼻叫喚地獄に塗れさす』などと書いてある。ここまでケーキだと主張するなら、字幕の中にある「ムサカ」を全部「ケーキ」に変えて、ホワイトソースと訳してある部分も「生クリーム」にしてしまえばよかったのに。このあたりは、開き直り不足だなぁ。

 全編ビデオ撮影でキネコ変換というのも、この映画の怪しさをさらに強調する。しかもCGはレベルが低いし、合成も荒い。いかにもやっつけ仕事で、作り手の愛情やこだわりなど微塵も感じられない。CGのUFOなんて、3Dソフトで30分ぐらいで作ったようなフォルムだぞ。とにかく全体に、手っ取り早く作ってしまった雑さが目立つ。しかしこの雑さがある程度は映画の勢いになっていて、物語のあほらしさや馬鹿馬鹿しさをものともせずに、映画を最後まで突っ走らせてしまうのだけれど……。

 ムサカが巨大化した理由はよくわからないし、なぜムサカが街の中をうろうろ練り歩くのか、なぜ人を襲って殺すのか、なぜ海に行くと事態が解決するのかもよくわからない。もとより理屈など超越したところに、この映画は成立しているのだ。しかもムサカの出現に右往左往する人間たちのドラマも、何が描きたいのかまったく不明。紙のように薄い人間描写と、ただ混乱してうろうろするためだけに出てくる人間たちなどは、ハリウッド製のパニック映画のパロディのようにも見えるけれど、意図的にパロディを狙っているわけでもないようだ。その場その場の思いつきで、たぶん作り手が面白いと思ったギャグを入れていっただけなのだろう。パロディにするなら、いくらでも他に方法があるはずなんだから。

 全部観終わった後で、ひどく理解に苦しむ映画です。なぜこんな映画ができてしまうのかがよくわからないし、なぜこんな映画が日本公開されてしまうのかもわからない。ギリシャに現れる巨大モンスターが、ギリシャ料理のムサカだというのはわかる。だったら破壊するのは、いかにもギリシャらしい古代遺跡とかにした方がよさそうだけど、そういうサービス精神はこの映画には存在しないのです。作り手が作る過程で楽しんでいるのだろうけれど、その楽しさが観客に伝わる前に自己消費されてしまっているような映画です。一言でいえばつまらない。

(英題:The Attack of The Giant Moussaka)


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