ツバル

2000/11/28 シネカノン試写室
モノクロ・サイレント風の演出で描かれる幻想世界。
ヒロインがチャーミングです。by K. Hattori


 ドイツの若い映画監督ファイト・ヘルマーの長編デビュー作。舞台になっているのは、廃墟のような町にある古びたプール。主人公はそこで働くアントンという青年だ。プールは荒れ放題で客もほとんどいないのだが、アントンの盲目の父親で管理責任者でもあるカール老人は施設の心臓部である巨大マシンの手入れを怠らず、今もプールが人々に愛されていると信じている。そんなプールにやってきたのが、元船長を父に持つエヴァという少女。アントンは一目で彼女に恋をする。一方町の再開発に関わっているアントンの兄グレーゴルは、厄介者のプールを町から撤去したくて仕方がない。彼はあの手この手で、プールを閉鎖に追い込もうとする。

 サイレント時代の映画を思わせる作品。画像はモノクロであとから場面ごとに着色してあり、わずか2ヶ所に「総天然色」の幻想シーンがあるのみ。台詞はあるがそれも最小限。呼びかけるとき出てくる人名や、最小限の固有名詞ぐらいしか出てこない。この映画は会話ではなく、すべてパントマイムで進行する。外国映画なのに、この映画には字幕がひとつも入らない。それでいて、ストーリーはきちんと観客に伝わる。この映画については「白黒フィルムの無声映画」と言われることが多いようだが、監督はこれを明確に否定している。撮影はモノクロで行っても後から色をわざわざ付けているし、サウンド面でもさまざまな工夫をしているというのだ。しかしこの作品が、サイレント時代の映画手法を模倣しようとしているのは確かだろう。台詞ではなく、役者たちの表情や動きを中心にしてストーリーを進めていく。サイレント作品との違いは、台詞を示すタイトル字幕すら使わないこと。同じようにモノクロ・サイレント映画風の効果を狙ったアキ・カウリスマキ監督の『白い花びら』は、タイトル字幕を使って会話シーンを作っていたはず。『ツバル』はそれより、ずっとサイレント度が高い。

 廃墟のような異世界を描いている点で、この映画はジュネ&キャロの『ロスト・チルドレン』に一脈通じる映画になっている。『ロスト・チルドレン』が好きだった人は、この映画も面白いと思うかもしれない。アントンを演じているのは、かつてレオス・カラックス監督の分身として『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』『ポンヌフの恋人』などに主演していたドニ・ラヴァン。なんだかすごく久しぶりの登場だ。エヴァを演じているのは『ルナ・パパ』で見ず知らずの男に妊娠させられてしまう少女を演じたチュルパン・ハマートヴァ。『ルナ・パパ』という非常に饒舌でせわしない映画の後に、こういう台詞のない映画が来る落差の大きさにびっくり。全裸の水泳シーンなどはいかにも健康的なヌードで、観ていてドキドキしてしまいました。

 カウリスマキ監督の『白い花びら』も含め、こうした映画の先祖帰りのような試みが行われるのは、既存の映画文法が行き詰まりかけている証拠なのかも。ゴダール映画を観た後だけに、ふとそんなことも考えた。

(原題:TUVALU)

2001年春公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:アルシネテラン


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