非・バランス

2000/12/21 メディアボックス試写室
孤高の女子中学生と寂しがり屋のオカマの友情。
もう少し押しが強くてもよかったかも。by K. Hattori


 13歳の中学2年生・松本チアキと、中年のオカマ・菊ちゃんの不思議な友情を描いたドラマ。原作は魚住直子の同名小説。1996年の講談社児童文学新人賞を受賞した作品だそうです。最近の児童文学にはオカマも登場するんですね。ちょっと驚き(*)。中身は学校でのイジメや自殺未遂事件などをからめてあって、やはり中学生を主人公にした『カラフル』とも少し似ている。『カラフル』の主人公は少年だし、彼は自分の身体を借り物だと考えてものすごくクールに自分自身を見つめている。でも『非・バランス』の主人公は、そんなに割り切って生きられないのです。小学校時代に同級生たちから執拗なイジメを受けていた彼女は、中学生になるとき2つの誓いを立てる。「クールに生きること」と「友達を作らないこと」だ。クラスの中でひとりだけ超然とした態度をとるチアキは、クラスメートたちから「仙人」と呼ばれている。でもいくら表面的にはそんな態度を取っていても、彼女の心の中は未整理なままだ。夜になれば小学校時代のイジメが悪夢となって彼女を襲い、真夜中や早朝に自分をいじめた元クラスメートの家に無言電話をかけてニヤリと笑う。そんな自分が嫌で嫌でたまらないのに、自分ではどうしようもない。ホラービデオも万引きも、彼女の心の重圧を取り除いてはくれない。そんな時、チアキは菊ちゃんに出会うのだ。

 チアキを演じているのは映画初出演の派谷恵美(はたちやめぐみ)。菊ちゃんを演じているのは小日向文世。彼はいろいろな映画に脇役で出演しているそうですが、僕は今までまったくノーマークだった。映画の中には他にもいろいろな俳優が登場します。有名な人もいれば、芸達者なベテランもいる。でもなんと言っても主役ふたりが突出した存在感で、この映画を支えています。派谷恵美の芝居は固いしぎこちない。でもそのぎこちなさが、肩肘張って生きているチアキの不器用な生き方と重なり合って、なかなかいい味になっていると思いました。

 人間はひとりでは生きていけない。だから誰かを好きになる。時には互いに好意を持って、固い友情や愛情で結びつくこともある。でも人間は弱く愚かな存在なので、そうした友情や愛情も壊れてしまう場合がある。裏切られて傷つく苦しみは、孤独でいることの苦しさに比べてどれくらい辛いだろうか。チアキは友達に裏切られることを恐れて、孤独に生きようと決意する。友情も恋愛も下らないというのが、13歳のチアキの人生哲学。一方の菊ちゃんは、かつての恋人に裏切られ傷つきながらも、かつて存在したであろう愛の幻影にすがりつくように生きている。愛と裏切りという同じ悩みを抱えながら、対照的な生き方をしているチアキと菊ちゃん。ふたりは一夏の友情の中で、新しい人生を歩みだして行く。

 人物造形はしっかりしているし、筋運びもよどみがない。でも主人公たちが抱えているジレンマが衝突し、解消して行くカタルシスがちょっと弱いような気がする。あと一歩で、もっと泣ける映画になったはずだけど。

*本屋で原作を見かけたのでパラパラ立ち読みしたら、なんと菊ちゃんが登場しない! 原作に出てくるのはアパレル会社の女子事務員でした。菊ちゃんがオカマになったのは、映画ならではの大胆な脚色。脚本は風間志織です。

2001年3月下旬公開予定 シネセゾン渋谷
配給:メディアボックス、日本ビクター


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