バガー・ヴァンスの伝説

2000/12/27 FOX試写室
ロバート・レッドフォード監督が描く'30年代初頭の南部。
全体にこぎれいにまとまりすぎかなぁ。by K. Hattori


 1929年の恐慌で、それまで繁栄を誇っていたアメリカ経済は崩壊した。1931年、ジョージア州サヴァンナに全米一のゴルフコースを造ろうとしていた大富豪インヴァゴードンは、資金運営に行き詰まって拳銃自殺。残された一人娘アデールのもとには、ゴルフ場を潰して工場にしようとする債権者たちが押し掛けてくる。アデールは父の遺志を継いでゴルフ場を守るため、高額賞金をかけたエキジビション・マッチを企画。アメリカを代表するプロゴルファーとして、ウォルター・ヘーゲンとボビー・ジョーンズが招待される。だがこの話を聞いて地元住民は大反発。サヴァンナ人の名誉にかけて、地元からも有名選手に匹敵する選手を出場させなければ気が済まない。そこで白羽の矢が立ったのが、10数年前に十代でオープントーナメントの勝者になった経験を持つラナルフ・ジュナだった。かつてはアデールの恋人だったこともあるジュナだが、彼は戦争から帰って以来、酒と博奕に溺れる自堕落な生活を送っていた。大会出場の依頼を断ったジュナ。だが彼のもとに、バガー・バヴァンスと名乗る黒人キャディが現れる。

 第一次大戦前の牧歌的で無邪気なアメリカ。第一次大戦への参加で知った厳しい世界の現実。大戦後の好景気と享楽に湧いた狂乱の'20年代の中で、進むべき方向性を見失う。そして世界大恐慌による自信喪失。今世紀初頭(この言い方もあと数日で使えなくなるなぁ)のアメリカがたどった歩みは、そのまま若いゴルファー、ジュナの人生に重なり合う。映画の中でジュナは自らの力と自身を取り戻し、力強く新しい人生を歩み始める。同じように、不況でどん底まで落ちたアメリカも1933年に始まるニューディール(新規巻き直し)政策で持ち直し、第二次大戦後の強いアメリカへと変身して行く。この映画はひとりの若者の成長物語であると同時に、間違いなくひとつのアメリカ史を描いた作品でもあるのだ。

 監督はロバート・レッドフォード。彼の俳優としての当たり役に『華麗なるギャツビー』があるが、この映画はその少し後の時代の話だ。そう言えば南部のゴルフ場でキャディをしていた少年の話をフィッツジェラルドが書いていたなぁ、などと思いながら僕は映画を観ていた。黒人キャディのバガー・ヴァンスを演じているのは『メン・イン・ブラック』『ワイルド・ワイルド・ウェスト』のウィル・スミス。ジュナを演じているのはマット・デイモン。アデール役はシャリーズ・セロン。映画の冒頭とラストに名優ジャック・レモンが登場し、彼が自分の子供時代を回想するという形式で物語が進む。

 バガー・ヴァンスはうらぶれたキャディだが、ゴルフの神様、あるいは妖精、もしくはジュナにとっての守護聖人のような、超常的な能力を感じさせる不思議な人物。それが人生に迷いを感じている若者を助けるために突然現れ、役目を終わればあっという間に去っていく。この役をウィル・スミスが演じると、マット・デイモンが演じるジュナのエピソードを食ってしまう。そこが問題だ。

(原題:The Legend of BAGGER VANCE)

2001年2月上旬公開予定 日比谷映画他 全国東宝洋画系
配給:20世紀フォックス


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