あの頃ペニー・レインと

2001/01/12 SPE試写室
『シングルス』『ザ・エージェント』の監督が描く自伝的物語。
ロック・ミュージシャンとグルーピーのお話。by K. Hattori


 『シングルス』『ザ・エージェント』のキャメロン・クロウ監督最新作。クロウ監督は元ローリングストーン誌の記者で、その時の取材経験をもとに書いた脚本が『初体験/リッジモンド・ハイ』。その後'89年に『セイ・エニシング』で監督デビューするが、今までに今回の作品も含めて4本しか映画を撮っていないのだから、職業的な映画監督としては寡作な部類だろう。本当はもっと映画を撮って欲しいんだけど、本人はジャーナリストとしてまだやりたいことがいっぱいあるらしい。最近もビリー・ワイルダーへのインタビュー集が、日本でも発売されたばかり。(早く買わなきゃ。)

 『ザ・エージェント』でハリウッドのトップスターであるトム・クルーズと組んだクロウ監督は、ハリウッドの商業映画の分野で一応はトップに立ったということなんだと思う。そこでクロウ監督が次に選んだのは、自分自身の体験をたっぷりと盛り込んだ青春映画。1973年、15歳でローリングストーン誌の記者になった高校生のお話だ。クロウ監督はこの映画で、自らの表現のルーツについて語っている。もちろん映画に登場する主人公の名は変えてあるし、登場するバンドも架空のものだし、登場人物たちも架空の人たちだろう。でもこの映画の中に、クロウ監督の実体験がたっぷり詰まっていることは想像に難くない。今回の映画は、いつもの凝った語り口が影を潜めている。最初から最後まで、かなりオーソドックスな演出。『シングルス』や『ザ・エージェント』にあった、皮肉っぽく対象を突き放すような計算はない。映画作品としては『セイ・エニシング』の頃に戻ったような、ちょっとナイーブな青春物語なのだ。こんな映画に仕上がっているのは、クロウ監督が映画を通じて自分自身を語っている気恥ずかしさからだろうか。

 10代後半から音楽ジャーナリストとしてのキャリアを積んできたクロウ監督は、取材の中で大勢のミュージシャンに出会い、彼らと寝食を共にしては去って行くグルーピーたちにも出会っていたのだろう。この映画の中では、ヒロインのペニー・レインに「私たちはグルーピーじゃない。セックスが目的じゃないの。私たちは音楽家に霊感を与える存在。バンド・エイドなのよ」と言わせている。自ら傷つくことを自覚しながらも、ミュージシャンたちを体を張って応援することに青春を捧げた少女たち。ファイルザ・バーク演じるサファイアが、冷めかけた朝食をパクつきながら最後にポツリと漏らす台詞がこの映画のすべてだろう。ミュージシャンに身も心も捧げ、苦楽を共にし、捨てられてしまう少女たちはいったいどこに行ってしまったんだろうか? 彼女たちは音楽に青春のすべてを捧げた少女時代を抜け出し、無事に日常生活の中に戻っていったのだろうか? 日常への帰還は、夢の終わりなのか? ミュージシャンとの日々は、単なる現実逃避だったのか? その問いに対するクロウ監督なりの答えが、この映画になっているんだと思う。甘酸っぱくて胸が詰まりそうになる優しい映画です。

(原題:ALMOST FAMOUS)

2001年2月下旬公開予定 スカラ座2
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


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