彼女を見ればわかること

2001/01/16 GAGA試写室
人間の孤独をまっすぐに見据えたオムニバス風のドラマ。
孤独が大きいほど、癒された喜びも大きい。by K. Hattori


 ロサンゼルス郊外に住む、年齢も職業も生活環境も違う女性たち。何か大きな事件が起きるわけでもなく、彼女たちの日常はただ淡々と過ぎて行く。それぞれが、心の中に大きな孤独を抱えながら……。全部で5章からなるオムニバス風の群像劇だが、各エピソードごとに共通して登場する人物が少しずつ現れたりして、全体としてはひとつの大きな世界を作っていることが観客にはわかる仕掛け。しかし映画の中の登場人物たちは、自分が属しているエピソード以外の場面で、誰がどんな人生を送っているかをまったく知らない。この手の群像劇では個々人のエピソードが最後に束になって大きな物語を作ったり、相互のエピソードが有機的に絡まって意外な展開を生み出したりするパターンが多いのだが、この映画はそうならない。ひとりひとりの人間は他人から干渉されることなく、自分自身の人生を生きるしかないのだ。

 監督・脚本はこれが長編映画デビュー作となるロドリゴ・ガルシアは、ノーベル賞作家ガルシア=マルケスの息子。撮影監督としてハリウッドで活動しながら、2年半かけてこの映画の脚本を書き上げたという。新人監督のデビュー作で、しかもインディーズ作品だというのに、出演者の顔ぶれはすごく豪華。グレン・クローズ、ホリー・ハンター、キャメロン・ディアス、「アリーmyラブ」のキャリスタ・フロックハートといった売れっ子たちに、キャシー・ベイカー、エイミー・ブレナマン、それに何だかお久しぶりのヴァレリア・ゴリノなど。プロデュースは『フライド・グリーン・トマト』のジョン・アヴネット。この映画は俳優たちのスケジュールを調整して、わずか28日間で撮影を終了させたという。

 映画は女性の自殺死体から始まる。彼女の名前はカルメン・アルバ。しかし彼女の自殺の動機はわからない。彼女はこの映画のすべてのエピソードに、ある時は死体として、ある時は通行人として登場するのだが、ついに彼女がなぜ自殺したのかを示すエピソードは登場しない。この映画がテーマにしているのは、他人からは伺い知ることのできない人間の絶望や孤独なのだ。この映画では隣接するエピソードの登場人物たちが、互いの存在すら意識することなく暮らしている。しかし同じエピソードの中で共に生活しながらも、そこにはやはり孤独が存在するのだ。医者のエレンは痴呆症の母と暮らしているが、そこには通常のコミュニケーションが成り立たない。銀行の支店長をしているレベッカは妊娠をきっかけに、恋人との関係が上辺だけのものであることを悟ってしまう。ローズは15歳の息子がもう一人前の男であることにびっくりするし、占い師のクリスティーンは恋人リリーの病気と迫り来る死をなかなか受け入れられない。盲目のキャロルは新しくできた恋人との関係がどうなったのかを、姉のキャシーに話すことができない。

 みんな寂しいんだな。みんな孤独なんだな。そしてみんながみんな、「私は世界で一番孤独だわ!」と思っている。僕ももちろん孤独さ。誰かに慰めてほしい……。

(原題:Things You Can Tell Just by Looking at Her)

2001年春公開予定 シネマスクエアとうきゅう
配給:サンセントシネマワークス 宣伝:楽舎


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