D.O.A.

2001/01/16 シネカノン試写室
セックス・ピストルズを中心としたパンクについてのドキュメンタリー。
シド・ヴィシャスのインタビューは痛ましすぎる。by K. Hattori


 '78年に行われたセックス・ピストルズのアメリカツアーを中心に、当時のパンクロック事情を多方面から取材したドキュメンタリー映画。単なるコンサート映画でもないし、セックス・ピストルズについての記録映画でもない。ましてやパンクロック版のミュージック・クリップ集でもない。ピストルズについては『ノー・フューチャー』という記録映画が最近日本でも公開されたばかりで、それを観ればイギリスのどういう状況の中からパンクが生まれてきたのか、ピストルズがなぜ2年程度で解散しなければならなかったのか、アメリカツアーがピストルズにとって何を意味していたのかなどを知ることができる。『ノー・フューチャー』がピストルズというバンドを通じてパンクの歴史を時系列に語る映画だとすれば、『D.O.A.』は'78年前後の時代を横方向にスライスして見せる映画だ。この映画に登場するのは、イギー・ポップ、セックス・ピストルズ、X−レイ・スペックス、リッチ・キッズ、ジェネレーションX、シャム69,ザ・デッド・ボーイズ、ザ・クラッシュなど。

 試写で観た上映プリントはかなり傷んで変色も目立つし、所々にフィルムの脱落があるものだった。撮影はゲリラ的に行われていたもののようで、音もあまりよくない。でもこの映画については、そうした傷があまりマイナスにはならないと思う。この映画が記録しているのは個々の演奏シーンではなく、バンド周辺に群がる観客、コンサートのプロモーター、自らバンドを組んでパンクを目指そうとする若者たち、反パンクの良識派なども含めた、社会現象としての「パンク」の全体像なのだ。

 映画の中心になっているのが、ピストルズ解散直前のアメリカツアーというのが面白い。『ノー・フューチャー』ではこのアメリカツアーの観客たちが、さんざんこき下ろされていたように思う。ロンドンで反体制だったピストルズだが、アメリカでは「イギリスで売れっ子のロックバンド」として熱狂的に歓迎される。ピストルズは格好いいバンドとして受けているのだ。メッセージの内容なんてどうでもいい。そもそも歌詞なんて聞き取れないし、満員のホールではバンドのメンバーの姿さえ見るのが困難。しかしそれでも観客たちは「ピストルズのコンサートに来た」という事実に満足している。バンドの周辺には、その夜は関係者たちのベッドに潜り込もうとするグルーピーたちがうろついている。ここではパンクが最初からファッションになっているのだ。

 映画には伝説のカップル、シド・ヴィシャスとナンシー・スパンゲンのかなり長いインタビューが収録されているが、これはかなり痛ましいもの。麻薬と酒でレロレロのヨレヨレになっているシドが、カメラの前で突然いびきかいて眠りこけてしまう姿をステージ上の颯爽とした姿と対比されたりすると、もう悲しくなっちゃうよ。この映画の完成前に、シドとナンシーは死んでいる。ちなみに『D.O.A.』とは辞書によれば、Dead On Arrival(病院到着時すでに死亡)という意味だそうだ。

(原題:D.O.A.)

2001年2月23日〜3月15日公開予定 渋谷シネパレス
配給:ケイブルホーグ


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