ぼくの小さな恋人たち

2001/01/24 TCC試写室
母親の都合で無理矢理大人にさせられた少年。
ジャン・ユスターシュ監督の自伝的作品。by K. Hattori


 1974年、ジャン・ユスターシュ監督が製作した自伝的な映画。前年製作された3時間40分の大作『ママと娼婦』はユスターシュの実体験をモデルにしているというが、この『ぼくの小さな恋人たち』もまたユスターシュ自身の体験を描いた自伝的な作品と言われている。だがどこまでが事実を元にして、どこからがフィクションなのかはわからない。物語の舞台はユスターシュが実際に少年時代を過ごした村や町だが、時代背景はこの映画が製作された「現在」、つまり1970年代になっている。これはあくまでも「自伝的映画」なのだ。

 フランス南西部にあるペサック村で祖母とふたり暮らしをしているダニエル少年は、近所の子供たちと遊び回る腕白小僧。学校の成績は優秀で、高校への進学が決まったのは祖母にとっても自慢のタネだ。ところが彼は中学卒業と同時に、フランス南東部の都市ナルボンヌで恋人と暮らしている母に引き取られることになった。母の恋人はスペイン人で、まだ正式には別れていない妻子がいるという。ダニエルを引き取ったものの、この家では彼はまったく歓迎されていない。家計にも余裕がないため、ダニエルは高校に行かせてもらえず、母の恋人の弟が経営する自転車修理工場に奉公に出されることになる。

 上映時間は2時間3分。小さなエピソードを積み重ねながら、主人公ダニエルの成長をスケッチ風に描いた作品だ。ダニエル役のマルタン・ロエブがいかにも幼い少年で、彼がナルボンヌで年かさの少年たちに混じって大人ぶるシーンは痛ましい。タバコを吸いながら窓の外のアベックをじっと見るシーンや、映画館の中でおっかなびっくり女性をナンパするシーンは観ていて気の毒になるほどだった。多感な少年が大人の都合で無理矢理大人たちの世界に放り出され、必死に背伸びしながら生きている感じがよく出ている。彼は勉強を続けたかった。自転車屋で働きながらも、ひょっとしたら資格試験を受けて上級の学校に進学できるのではないかという夢を持っている。だが彼はその夢の実現に向けて独力で歩き出すほど意志が強いわけでもない。目の前のお楽しみへの誘惑は、十代の少年にとってあまりにも強烈だ。

 ダニエルの住む世界はまったく不条理なもの。なぜ彼が平和な田舎暮らしから引き離され、母親に引き取られることになってしまったのかさっぱりわからない。子供を養う余裕がないのに、なぜこの母親は彼を引き取ったのか。そこには母親の愛情があったのか? それとも何らかの経済的な打算があったのか? あるいは優しそうに見える祖母が、ダニエルの養育を拒否したのか? こうした事情はまったく映画に描かれない。賢いダニエルは、そんな大人たちの都合や事情を解明したところで、自分の境遇が少しもよくはならないことを知っている。

 久しぶりにペサック村に戻ったダニエルが、村の子供たちと遊ぶラストシーン。しかし彼はもう大人になってしまった。町の暮らしが彼を決定的に変えてしまい、もはや昔の無邪気な少年には戻れなくなっているのだ。

(原題:Mes petites amoureuses)

2001年3月24日公開予定 ユーロスペース
配給・宣伝:ユーロスペース


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