こどものそら

2001/02/05 シネカノン試写室
札幌の学童保育施設「つばさクラブ」の記録映画。
子供の世界の豊かさと力強さに感動。by K. Hattori


 『阿賀に生きる』などのドキュメンタリー映画でカメラマンとして活躍し、写真家としても何冊もの写真集を出している小林茂の第1回監督作品。だがこの映画は1本の映画でありながら1本の映画ではない。札幌にある学童保育所「つばさクラブ」を取材した『放課後』(20分)『自転車』(30分)という2本の短編映画に、追加撮影された『雪合戦』(58分)という少し長めの映画を加え1本にまとめた映画なのだ。

 学童保育所というのは、小学校の授業が終わった後の子供たちを、親たちが仕事先から帰宅するまで預かっている施設のことだ。幼児を預かる保育園は夕方の6時や7時まで子供を預かってくれるのに、小学校は昼過ぎには終わってしまう。夫婦共働きが多い現代では、学童保育所は必ず必要な施設になっている。施設には公営のものと私営のものがあるが、「つばさクラブ」は私営の学童保育所。ここの特徴は、障害を持った子供たちも他の健常児とまったく区別せずに受け入れていることだ。

 僕自身は学童保育の存在は知っていたものの、そこで障害児がどう扱われているかという点にまではまったく考えが及ばなかった。だからこの映画の訴えかけているものが、すごく新鮮だ。障害児は小学校の特殊学級や養護学校から帰宅した後、たいていは地域の学童保育所で受けいられれる事なく、自宅でひとりで過ごしているのだという。ひとり遊びの孤独に耐えられず、近くを通りがかる子供に「おーい」と呼びかけていたという障害児の話はあまりにも痛ましい。こうした子供を、なんとか保育所で他の子供たちと一緒に遊ばせることはできないのか? つばさクラブはそれにチャレンジしている。

 僕自身は特殊学級や養護学校の存在を否定しない。学校が勉強を教えるところなのであれば、子供の能力に合わせたクラス分けは必要だろう。でも放課後はどうなのか? 地域の学童保育所では小学校1年生の子供と6年生の大きな子供が一緒に遊んでいる。その年齢差が生む格差に比べて、障害児は他の子供とどれほどの能力差があるというのか。遊びの世界の中では、子供たちの年齢差も障害の有無も関係なくなってしまう。つばさクラブでは障害を持った子供もそうでない子供も、指導員の先生たちも、みんなが同じように遊びに興じている。

 この映画が気持ちいいのは、映画の作り手の側にも、映画に登場する人々の中にも、「子供は大人に関係なく勝手に育つ」という信頼感があるからだと思う。障害児や健常児という区別は、大人が勝手に決めたものだ。子供たちにそんなことは関係ない。子供の身の安全をどうやって守るかにだけ大人が注意していれば、子供たちは自分たちの力ですくすくと成長していく。大人が子供を特定の方向に教え導くのではない。子供たちは自分たちの体の中に眠る能力を、自分たちの力で開花させることができる。大人たちの都合で、子供たちが大きく成長していく「放課後」を管理するのは愚かなことなのだ。この映画から、僕はそんなメッセージを受け取った。

2001年3月10日公開予定 BOX東中野
配給:「こどものそら」上映委員会


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