背信の行方

2001/02/06 GAGA試写室
20年前の出来事にとらわれつづける男と女の悲劇。
競馬界を舞台にした人間ドラマby K. Hattori


 サム・シェパードの戯曲「シンパティコ」を、イギリスの舞台演出家のマシュー・ワーカスが映画化した人間ドラマ。主演はニック・ノルティとジェフ・ブリッジス。プレス資料ではシャロン・ストーンが主演のひとりとして大きく扱われているし、『あなたの匂いは、消せない。』『若き日の過ち その日から、女は自分を、そして愛を偽りつづけた。』というコピーはまるでストーン主演のメロドラマ風。しかし彼女はこの映画の中でまったくの脇役。重要な役ではあるけれど、主役には程遠い。

 有名な競走馬シンパティコのオーナーとして、ケンタッキーの大邸宅に住むライル・カーター。そんな彼のもとに、20年前の古い友人ヴィニー・ウェッブから1本の電話がかかってくる。トラブルに巻き込まれて警察に逮捕されたヴィニーはパニックを起こし、20年前の古い出来事について洗いざらい警察に喋ってしまいそうだとカーターに告げる。はたして20年前に、ふたりの間に何があったのか? ヴィニーが握っている証拠品とは、いったいどんなものなのか?

 主人公たちが20年前に行ったのは、レース前夜に大本命の馬と穴馬を厩舎で入れ替えるという不正行為。この馬の交換という行動が、ドラマの中ではカーターとヴィニーの交換という形で再現されているようにも思う。不正レースで大金をせしめた後、カーターはヴィニーの恋人だったロージーを奪って結婚し、馬主として競馬界で絶大な権力を握ることになる。一方ヴィニーは酒に溺れ、過去の不正の秘密を後生大事に握ったまま、薄汚い部屋の中で20年もくすぶりつづけている。このふたりの立場は、20年たって再び入れ替わる。

 20年前の出来事を蒸し返そうとするヴィニーによって、周囲の人間たちが右往左往する物語。しかし肝心のヴィニーが何を思って行動しているのかが、僕にはよくわからなかった。彼の行動に狼狽し、我を忘れて転落していくカーターの同様ぶりはよくわかるし感情移入もできる。彼は自分の現在の地位が、不正と裏切りと欺瞞によって成り立っていることを知っている。ずっとそれをごまかして生きてきたのに、ヴィニーの登場が彼の良心に揺さぶりをかけるのだ。三角関係のもう一方の当事者であるロージーが、20年前にヴィニーを裏切った理由は何となくわかる。彼女はヴィニーの愛を信じられず、自分と同じ負い目を持ったカーターのもとに走ったのだろう。競馬馬のシンパティコは、カーターとロージーの偽りの生活を象徴している。しかしヴィニーは何がしたかったのか? 彼は問題の出来事から何十年もたった今になって、なぜ決定的な行動を起こさなければならなかったのか? これが僕には、どうしてもわからなかった。

 アメリカ競馬業界の裏側を描いた物語。競馬業界で不正をする者もいれば、そこに永遠の夢を見る者もいる。この競馬業界の描写にもっと厚みがあると、この映画はさらに面白いものになったと思う。今は芝居ばかりが突出してしまい、いささかいびつな映画になっています。

(原題:Simpatico)

2001年2月17日公開予定 有楽町スバル座
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給


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