死びとの恋わずらい

2001/02/09 東映第2試写室
伊藤潤二原作のホラー・ファンタジー映画。
物語に破綻もないまずまずのでき。by K. Hattori


 伊藤潤二の同名ホラー漫画を、後藤理沙と松田龍平主演で映画化したミステリアスで幻想的なホラー映画。伊藤潤二原作と聞くと、なんだかそれだけで『富江』シリーズや『うずまき』『押切』のような「トホホ系」の映画に違いないという予断を持ってしまうのだが、今回は今までの映画とは一味も二味も違う。どこが違うかというと、なんとこの映画、相当にまともなのだ。観るに堪えるのだ。今までの映画ほど安っぽくないのだ。しかしこれがはたして伊藤潤二テイストの映画になっているのかどうか、原作を読んでいない僕にはよくわからない。むしろ徹底してデタラメな『うずまき』の方が伊藤潤二の雰囲気だったのではなかろうかと、今になって思ったりもする。実際はどんなもんなんでしょう?

 高校生の深田みどりが、生まれ故郷の町に戻ってきたことから物語が始まる。みどりが高校で再会する、幼なじみの龍介。みどりに思いを寄せる男子生徒をめぐる、クラス内での愛憎関係。そこに、みどりの悪夢に夜な夜な登場する通学路の小さなお堂。お堂にまつわる辻占の言い伝え。辻占をすると現れるという、黒服の美少年の噂話。みどりの父親が失踪した謎など、いくつかのエピソードがからまっていく。やがて事件は、みどりの忘れ去っていた恐るべき過去を蘇らせる。

 後藤理沙にとっては『ガラスの脳』に次ぐ主演映画。松田龍平にとっても『御法度』以来の主演作。ふたりとも演技力には疑問があるけれど、初々しさと勢いで主役張ってます。芝居については周辺がバックアップ。みどりの母親役に秋吉久美子が配役されているほか、三輪明日美、三輪ひとみ、高橋慎二、猪俣ユキ、本田博太郎、斉藤洋介などが、物語にボリュームを出している。

 この映画の面白さは、「辻占」という日本古来の呪術的な占いと、高校生たちの恋愛感情やまことしやかに囁かれている都市伝説、さらにはヒロインが記憶の中に封印している過去の事件などを巧みに組み合わせている点にある。僕は「辻占」という言葉は知っていたけれど、それは占い師が辻に立って通りがかりの人の吉凶を占うものだとばかり思っていた。実際は逆で、占いをしてもらう人が辻に立ち、通りがかりの人の言葉を通じて吉凶を占うのが本筋。早朝や夕方などの薄暗い時間に、ありふれた道路の辻はこの世とあの世を結ぶ境界になるのだという。ちょっと不気味な話だ。その不気味さが、この映画の中にもそのまま影を落としている。

 終盤のタネ明かしも含めて、この映画にはあまり破綻がない。きれいにうまくまとまっている。しかしその破綻のなさを「物足りない」と感じてしまうのは、僕が『富江』以来の伊藤潤二原作映画の毒にあてられてしまったからだろうか。僕はこの映画を観て「トホホ度が足りないぞ!」と思ってしまったのだが、これは映画のできがそんなに悪くないからなのだ。ただしこれは、他の伊藤潤二原作映画に比べてという意味。単独の邦画ホラー作品としては、ちょっと弱いかなぁ……。

2001年3月24日公開予定 新宿東映パラス2 全国
配給:アートポート、アースライズ


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