ミリオンダラー・ホテル

2001/02/21 東宝東和試写室
ヴィム・ヴェンダースの最新作はロスの古ぼけたホテルが舞台。
優しげに見えて、結構残酷な映画かも。by K. Hattori


 『フィフス・エレメント』『ジャンヌ・ダルク』のミラ・ジョヴォヴィッチと、『プライベート・ライアン』のアパム伍長ことジェレミー・デイヴィスが主演する、ヴィム・ヴェンダースの新作映画。ロサンゼルスにある古びたホテルを舞台に、浮世離れした住人たちが繰り広げる夢と愛の物語。原案・製作・音楽を担当しているのはU2のボーカリストで、ヴェンダースとは過去に何度か一緒に仕事をしたこともあるボノ。ボノと一緒にアイデアを温め、脚本に仕上げたのはニコラス・クライン。音楽のプロデュースはハル・ウィルナーが行っている。

 僕はヴェンダース作品とはどうも相性が悪く、『パリ、テキサス』と『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』以外の作品はどれもピンと来ない。ヴェンダースはアメリカ映画やハリウッド映画に対してへんなコンプレックスがあって、それが『夢の涯てまでも』や『エンド・オブ・バイオレンス』のようないびつな映画を作らせてしまうような気がする。ハリウッド映画のようなわかりやすい娯楽映画を指向しつつ、ハリウッド映画のような作品だけは作るまいという心理的な葛藤がどこかにあるのではないだろうか。最近は『バンディッツ』や『ラン・ローラ・ラン』などの作品で、ドイツの若手監督が台頭してきているのだが、こうした若手が素直にハリウッド型のエンタテインメント指向なのに比べると、ヴェンダースの態度はものすごく屈折したものに見える。

 しかしこの『ミリオンダラー・ホテル』は、そんなヴェンダースのアメリカ映画に対するコンプレックスがあまり感じられない作品になっていると思う。ハリウッド映画の大スターであるメル・ギブソンがかなり大きな役で登場するのだが、そこには少しの遠慮も引け目もない。ヴェンダースは自信たっぷり、好き勝手にギブソンをいじり回している。物語自体は「ひとりの自殺者をめぐるミステリー」としてハリウッド型娯楽映画の枠組みにはめてしまうのも簡単な作品だと思うが、ヴェンダースは登場人物のひとりひとりにスポットを当てて、ミステリーを下敷きにした集団劇、繊細な心を持つ若い男女のラブストーリーへと仕上げている。これは『エンド・オブ・バイオレンス』に比べると大きな変化。一体彼にどんな心境の変化があったのか。この映画が自分自身の企画ではないことで肩の力が抜けているのか、『ブエナ・ビスタ〜』がヒットしたことで何か吹っ切れたのか、あるいは自作がハリウッドでリメイクされた『シティ・オブ・エンジェル』を観て心中のわだかまりが解けたのか。

 この映画に登場する人たちは皆傷ついている。傷ついた自分自身を慰めるように、全員が幻想の世界に住んでいる。弱い自分、病んだ自分、孤独な自分の姿から目を背けるように、人々は思い思いの幻想で自分自身を紛らわせている。ある者は自分をインディアンの酋長だと思い、ある者は自分を元ビートルズのメンバーだと考える。それらの幻想がすべて許容されてしまう空間が、ミリオンダラー・ホテルなのだ。優しく、少し残酷な映画です。

(原題:The Million Dollar Hotel)

2001年4月28日公開予定 日比谷シャンテシネ
配給:東宝東和 宣伝:楽舎


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