リムジン ドライブ

2001/02/23 映画美学校試写室
ガングロのコギャルがニューヨークで大冒険。
山本政志監督のファンキーな新作。by K. Hattori


 つい最近『熊楠 KUMAGUSU』の撮影が再開すると伝えられ、映画ファンに「そういえばそんな映画もあったなぁ」と改めてその名を知らしめた山本政志監督の最新作。今から10年ほど前、『ロビンソンの庭』や『てなもんやコネクション』で日本インディーズ映画界のスター監督だった山本監督だが、考えてみればあの頃は「メジャー」と「インディーズ」の区分も今より余程明瞭だった。あの頃のインディーズというのは、単に「独立系」というだけではなく、それを越えた映画運動であるかのように解釈されていたようだ。ジム・ジャームッシュの映画が評価されたのと同じ文脈の中で、山本政志や林海象の名前が取りあげられていたのだ。その後ジャームッシュもハリウッド映画みたいなものを作っているし、林海象もメジャーで作品を撮っちゃったりで、10年前のインディーズ魂を感じさせるのは山本政志監督だけ。これを単に時流に取り残されたと解釈するのは簡単だけれど、そんな監督論とはまったく無関係なところで、この『リムジン ドライブ』は滅法面白い映画だと断言する。

 物語の主人公はニューヨークでリムジンの運転手をしているマリークという黒人の中年オヤジと、恋人を訪ねて日本からやってきたエリという渋谷系ガングロギャル。ジャパンマネーに物を言わせてマリークのリモに乗り込んだエリだったが、恋人に振られてやけっぱちの大暴れ。それを止めたマリークも車を盗まれてさんざんな目に遭ってしまう。この後エリはそのままマリークの部屋に居着いてしまい、エリとボーイフレンドをめぐる話とか、マリークと娘の関係とか、怪しげな商売をしているパキスタン人とか、ベトナム系中国人マフィアとか、そんな雑多な人物たちが繰り広げる雑多なエピソードが、1時間半強の映画の中にギッシリと詰め込まれている。

 マリークを演じているのはこの映画の音楽も担当しているT. M. スティーブンス。エリ役の仲祐賀子は新人だというが、周囲の外国人キャストと日本語英語チャンポンの台詞で堂々と渡り合う度胸のよさを見せる。演技経験がまったくない素人が、素材のままですごい切れ味を披露しているのだから恐れ入る。この映画の芯になっているのは間違いなく彼女であり、彼女なしにはこの映画もまったく違った印象の作品になっていたと思う。そのヤバイ恋人を演じているのは、山本監督の前作『JUNK FOOD』でデビューした鬼丸。今回はギャング映画好きのチンピラという役で、英語の台詞もあったりする。この映画でも抜群の存在感を放って、周囲の風景にまったく負けていない。彼が集金から戻るシーンや、ベトナム系ギャングの事務所に連れて行かれるシーンはすごい迫力。ところが彼にしたところで、エリと一緒のシーンになると彼女に負けちゃうんだから……。仲祐賀子恐るべし!

 恋あり、友情あり、親子の愛情ありで、かなり内容は盛りだくさん。それでいて雑然とすることなく、最後はきちんとハッピーエンディングになるエンタテインメント作品。ビデオ撮りだが画質も良好だ。

(原題:LIMOUSINE DRIVE)

2001年5月下旬公開予定 シネセゾン渋谷
宣伝・配給:レイライン


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