マレーナ

2001/02/26 GAGA試写室
トルナトーレ監督が故郷シチリアを舞台に描く愛の物語。
マレーナを演じるのはモニカ・ベルッチ。by K. Hattori


 『海の上のピアニスト』が今ひとつぱっとしなかったジュゼッペ・トルナトーレ監督だが、この新作はなかなか素晴らしい映画になっている。物語の舞台は第二次大戦勃発直後から戦後にかけてのシチリア。『ニューシネマ・パラダイス』もこの時代のシチリアを描いたシーンがあったが、トルナトーレはこの時代のシチリアを描くのがじつに上手い。本人は'56年生まれの戦後派だから、当然この時代をリアルタイムで知っているわけではない。たぶんこの時代のイタリアに、個人的な郷愁なりこだわりなりがあるのでしょう。そう考えると第二次大戦前後をスッポリと欠落させている『海の上のピアニスト』に精彩がなかったのも、何となくわかるような気がする。

 ルチアーノ・ヴィンセンツォーニという脚本家が書いた短編小説を原作に、トルナトーレが脚色・監督している。ラジオが第二次大戦へのイタリア参戦を告げ、小さな町が異様な興奮に包まれた日、主人公レナートは初めてマレーナに出会う。彼女は出征している兵士の妻。その美しさで町中の男たちを虜にし、町中の女たちから嫉妬の目でにらまれる女だ。思春期を迎えつつあるレナートは、マレーナの美しさに心をときめかせ、彼女に恋い焦がれるようになる。だが戦争が始まってしばらくすると、彼女のもとに夫が戦死したという知らせが届く。人妻から未亡人になったマレーナは、町中の男たちから好奇と好色の目で見られるようになる。

 1時間半少しという上映時間は、トルナトーレの映画の中では短い方だろう。しかしこの映画の中には、じつに様々な要素が詰まっている。映画の前半から中盤にかけてたっぷりと描かれるのは、思春期の少年が抱く年上の美しい女性への憧れ。幻想シーンの中でレナートはマレーナと恋人同士になり、傷つき涙を流す彼女を優しく慰める。実際には彼女に声をかける勇気など少しもないくせに、レナートは騎士道精神を発揮して彼女を守るために戦おうと決意するのだ。だがその決意は、残酷で厳しい現実の前にはあまりにもひ弱なものだ。

 マレーナを演じているのは『アパートメント』『ドーベルマン』のモニカ・ベルッチ。ほとんど台詞はないが、その存在感だけでマレーナになりきっている。音楽はトルナトーレ監督と長年コンビを組んでいるエンニオ・モリコーネ。主人公レナートがマレーナを見つめるただそれだけの場面でも、モリコーネの音楽が流れるだけで胸を締め付けるように切ない名場面へと変貌する。

 マレーナの運命は悲劇的なものだ。悲惨で無惨で残酷なものと言ってもいい。しかし物語が暗くならないのは、この映画の中のマレーナがいつも、主人公レナートの視線というフィルターを通して描かれているからだろう。彼にとってマレーナは、どんな境遇にあろうとも美しく光り輝く女神なのだ。後日談めいた最後の10数分間を余計に感じる人がいるかもしれないが、この映画の感動が凝縮されているのはこの場面。それまでの1時間以上の時間は、このラストシーンに向けての助走なのだ。

(原題:MALENA)


2001年初夏(5月下旬)公開予定 丸の内プラゼール他 全国松竹東急系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
ホームページ: http://www.malena-jp.com/



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