タイタンズを忘れない

2001/02/26 ブエナビスタ試写室
'70年代初頭に実在した高校フットボールチームの物語。
人種差別を克服した小さな町の奇跡。by K. Hattori


 アメリカで1950年代に始まった黒人公民権運動は、'60年代に運動としてのピークを迎え、社会の中にめざましい変化と成果を生みだしていく。続く'70年代は、達成された成果が社会の中に定着していく時代だ。だがいくら制度としての差別がなくなったとしても、人々の意識が制度に合わせてすぐに変化するわけではない。

 '71年のヴァージニア州アレキサンドリア。人種差別解消のための統合政策によって、それまで人種ごとに分離していた高校が合併することになる。白人高校で10年以上に渡ってフットボール部のコーチをしていたビル・ヨーストは、チームの統合によってヘッドコーチの座を解任され、黒人のハーマン・ブーンに席を譲ることになる。ヨーストは長年の実績を持つ優秀なコーチだったが、教育委員会は「人種平等」を周囲にアピールするためあえて黒人のブーンをコーチに任命したのだ。この措置に白人の選手や保護者たちは大反発し、コーチと一緒にチームを辞めると言い始める。ヨーストは選手たちを引き続き監督するため、ブーンのアシスタントとしてチームに残ることにする。人種混合の新生チーム“タイタンズ”は、波乱含みのスタートを切ることになる。

 今から30年前に実際にあった実話の映画化だという。製作はジェリー・ブラッカイマー。監督はボアズ・イエーキン。黒人コーチのブーンを演じるのはデンゼル・ワシントン。白人コーチのヨーストを演じるのはウィル・パットン。選手役に若手の俳優を大勢起用して、生きのいいスポ根青春ドラマに仕上げている。スポ根ドラマはチームの勝ち負けでドラマの山や谷を作るのが定石だが、この映画ではタイタンズが連戦連勝する一本調子の上り坂。しかしチーム内外の人間関係でドラマの起伏を作って、涙あり笑いあり、しかも試合シーンの手に汗握る興奮ありという映画に仕上げている。

 同じ目的があれば、黒人と白人が人種を越えて手を携えることはできる。チームが合宿を経て大きく変貌したのはそのせいだろう。しかし人種の分離が当たり前のように行われている町に彼らが戻ってくれば、彼らの方が異端者として扱われる。チームの白人選手は他の生徒たちから裏切り者扱いされ、保護者たちからは「黒人から悪影響を受けた」と言われる。彼らの行動が理解されるようになるのは、彼らが試合で勝ち続けたからだ。「人種差別はよくない」という正論をどんなに主張しても、タイタンズが弱ければ「それ見たことか」と言われる。正しいことを主張するためには、強くなければならない。この単純さがアメリカの流儀であり真理なのだ。

 映画に描かれた人種統合への苦難の道のりは、そのままこの30年間にアメリカがたどってきた道のりに重なり合うのだと思う。だがアメリカの人種問題がすべて解決されているわけではない。アメリカではヒスパニックやアジア系の住民をめぐり、新たな人種問題も生まれている。「タイタンズを忘れるな」というのは、現代のアメリカ人に向けてのメッセージでもあるのだろう。

(原題:Remember the Titans)


2001年4月GW公開予定 日比谷映画他 全国東宝洋画系
配給:ブエナ ビスタ インターナショナル(ジャパン)


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